研究課題/領域番号 |
17K14834
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
長尾 征洋 名古屋大学, 環境学研究科, 講師 (40432223)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | センサ / イオン導電体 / PM / 活性酸素 |
研究実績の概要 |
昨年度の研究により、電極間に電位を印加することで水蒸気の電解により発生した活性酸素を利用すると、炭素成分が燃焼し二酸化炭素が生成することが分かっている。検知ガス中に含まれる炭素成分は微小な固体であり、燃焼反応が起きる反応場は電極/電解質界面であることから材料研究だけでなく構造面での検討が必要である。そこで、本年度は各種電解質材料を用いたセンシング特性を評価し、電極構造の改良を行った。用いた電解質はリン酸スズ系無機化合物、イットリア安定化ジルコニア、イットリウム添加バリウムジルコネートである。材料のプロトン導電性が重要であるため、バリウムジルコネートやジルコニアの表面にリン酸スズ層を形成し、電極付近で高いプロトン導電性を付与した。いずれの材料を用いた場合でもカーボンの燃焼反応に伴うセンシングが可能であることが分かった。また、電極構造をデザインするにあたり、センシングに用いるPM粒子(PM発生器よりフィルター回収した炭素粒子)の状態を観察したところ、10から25nm程度の球体の粒子サイズで、全細孔容積が0.9cm3/g、比表面積が330m2/gであることが分かった。これらの物性を考慮しPt電極触媒にバリウムジルコネート粉末を変化させたところ、反応場が増大することにより観測される電流値が増大することが分かった。また、その添加量にも最適値があることが分かった。このことから、検知するPMの粒子状態と電極構造が相関していると考えられる。最後に、センシング特性の定量性に関して評価したところ、PM重量に依存して電流値の増加が確認された。 以上のように、PMの物性を明らかにすることで電極の設計の指針とすることができ、検知性能を向上させることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
おおむね計画書に記載の研究計画に沿って進んでおり、進捗としては問題がないと考えられる。今年度の実験内容は昨年度のベンチマーク試験に基づき、センシング性能の向上を図るための基礎データの収集、指針の確立、評価実験であり、おおむね達成できた。特に実験に用いる炭素粒子(PM)の物性を詳細に検討できたことは、本研究のみならず、他のPMを対象にした研究にも有用であると考えられる。特にナノ構造を有するPM粒子が二次粒子を形成していることを確認できたことは研究の展開に有用な情報であった。研究成果に関しては、昨年度に学会発表を行ったため、特に成果を公表することができなかった。昨年度の研究でセンシング特性の安定性に課題があることはわかっていたが、今年度解決に結びつけることはできなかった。不安定性をもたらしているのは主に用いる電解質材料のプロトン導電性に起因するものであり、これは材料の特質であるともいえる。そのため根本的な解決のためには材料の自体の特性を改良する必要があると考えられる。本研究は中温をターゲットとしており、検知ガス中の水蒸気が大きな影響を及ぼすため、電解質の性能が大きく変動することは避けられないが、より安定な材料を適用するなどして、改善が必要であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度および今年度の結果から、センサ素子としては電解質の安定性が重要であるが、本件は材料の特性とも関係するため、材料探索を含めて検討する必要がある。また、電解質材料だけでなく電極触媒の安定性も重要であるため、Pt以外の触媒を評価することが重要である。中でも酸化ルテニウムや酸化イリジウムなどはPM酸化活性が期待できる触媒材料である。これらの電極を様々な雰囲気下(含酸素雰囲気から還元性ガスを含む還元雰囲気)で評価する必要がある。今年度の実験から、バリウムジルコネートがプロトン導電性を付与する材料および基板材料として有用であることが分かったが、さらなる安定性が必要であると考えられる。次年度以降は従来のリン酸塩電解質に加え、安定化ジルコニアを用いたセンサ素子の検討も進めていく必要がある。 また、電極触媒としては遷移金属系の電極触媒が究極の触媒であると考えられるため、非貴金属触媒の観点での探索も進めていきたい。この候補材料としては、遷移金属の炭化物、窒化物などが有力であると考えられる。中でもモリブデン炭化物は燃料電池用触媒としての実績(既報)があるため、特に100度から400度の中温領域において高い触媒活性が期待できることから、優先的に評価を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由は、直接経費にて使用予定であった人件費(研究員を雇用)に変更が生じたためである。雇用計画が変更された理由は、本予算で雇用予定であった研究員が他機関へ移動したことによるものであり、当初は予想不可能であった。代わりの人材を募集することも可能であったが、本研究費の残期間と研究成果を勘案した結果、より有効な利用方法として以下のような予算執行計画に変更することとした。次年度の予算執行に当たっては、物件費としてX線粉末解析用のデータベース代金(120万円程度)に転換し、触媒や材料の相同定に役立てる。データベースを参照することによる物質の同定は合成を伴う実験には必要不可欠であり、本研究課題においても非常に重要な実験項目である。またそれ以外には、雇用予定であった研究員が担当するはずであったTEM測定や比表面積測定などを外部測定業者に依頼(1件20万を4件で80万円)することにより実施する予定である。
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