研究課題/領域番号 |
17K14838
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研究機関 | 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発 |
研究代表者 |
富永 大輝 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 研究員 (50513694)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 高分子科学 / ソフトマター / 階層構造 / 負のポアソン比 / 水 / 中性子散乱 |
研究実績の概要 |
ともに水溶性高分子であるpolyacrylamideゲルとpoly(2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid sodium saltゲル)から作成される多孔質高分子試料(Double Polymers)は、特異的な機械硬度物性を示す。5wt%程度の水を含む方が、絶乾試料よりも弾性率、最大破断応力ともに大きい。これまでの研究によりこの物質は3階層の高分子鎖の網目構造を有していることがわかった。ソフトマターの重要な特徴の1つは、水の存在によって物性が大きく影響することであるが、ここでは、水が、階層性を有するソフトマター中のどの階層にどのように吸着し、どのように高分子物質の機械強度へどのように働くのかを高分子物質の構造・ダイナミクスを小角中性子散乱法、中性子非弾性散乱法等を用いて明らかにする。 今年度は重水や軽水の水蒸気を用いて、小角中性子散乱法に加えて、X線や中性子を用いた超小角散乱法を用いて、研究を推進した。小角中性子散乱では得られない高分子網目の大きな空間スケールにおける構造情報を取得することに成功した。2段階目から3段階目の階層構造に相当する空間スケールに相当する。また、負のポアソン比の実測のための実験系の組み上げを行った。サンプルを用いた測定まで出来ていないが、次年度測定を行う予定である。室温だけでなく、温度も変化させる温湿度制御システムを構築した。これを小角X散乱実験に用いて実験することに成功した。この新システムにより温度5~80℃までの湿度雰囲気下における実験ができるようになった。湿度制御システムの最適化に課題があり今後改良する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
超小角散乱法を用いると、小角中性子散乱法では得られない、マイクロメートル以上の空間構造情報を得る事が出来る。これらを組み合わせて、3階層の階層構造を有するDN-polymersのそれぞれの階層の逆空間の構造変化にアプローチすることができる。平成29年度の計画は、マクロ物性評価とポアソン比の測定であったが、平成30年度以降の計画の、超小角中性子散乱測定、水蒸気絶対圧制御による温湿度制御システムの構築、マクロポアソン比測定系の構築と測定を先行させた。このうち、湿度制御雰囲気下における超小角中性子散乱測定の実験をオーストラリアの中性子散乱施設(ANSTO)で遂行した。大きな構造の方が湿度増加に大きく変化することが明らかになった。 温度も変化させる温湿度制御システムの開発では、絶対圧制御は精度が高い一方で、平衡に長時間かかるため、大量水蒸気のフローによる湿度制御方法を採用した。完成させた温湿度制御システムを小角X線散乱に実際に使用して動作確認に加えて散乱データ取得した。湿度調整システムに課題が残るので今後改良する。ポアソン比測定系の構築については、測定系の検討、延伸治具の設計、製作まで行った。延伸治具については、温湿度雰囲気下で使用可能なチャンバー付き延伸方式を片引きから両引きに変更したため、測定までこぎ着けることが出来なかった。 本年度行えなかった測定は次年度以降行い、本系における水分子・高分子鎖のダイナミクスを測定し、階層性を有する水溶性高分子網目が水の吸着によってどのように変化するのかを明らかにする。多少計画と順序が入れ替わっているが、順調に成果が得られているので、到達度をおおむね順調とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、温湿度制御雰囲気下における小角・超小角中性子散乱測定を湿度フロー制御により行う。5℃から80℃までの範囲の湿度雰囲気における幅広い空間スケールの構造情報と粘弾性測定との相関を議論する。試料は電解質高分子網目(poly(2-acrylamido-2-methylpropanesulfonic acid sodium salt)ゲル)と中性高分子網目(polyacrylamideゲル))からなるダブルネットワークゲルから作成する多孔質体を用いる。得られた中性子構造解析データから機械強度に関するスケールを特定する。 水・高分子の緩和評価は、高分子網目の構造を先に評価したため、少し遅延しているが、得られた階層構造とのダイナミクスの関係に着目して研究をまとめる。これまでの知見で、大きい階層構造の方が小さい階層よりも構造変化しやすいことが分かっている。続いて、温度制御雰囲気下においても実験を遂行する。大きい構造に注目して超小角X線散乱実験も(USAXS)行う。平成29年度に開発した測定装置を改良して、実験を行う。ポアソン比測定システムはほぼ組み上がっているので、まず室温雰囲気から測定する。延伸中の各階層の構造変化について明らかにする実験系の構築も行う。これにより、マクロに加えた歪みエネルギーの蓄積・散逸メカニズムが明らかにし、モデルを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度にオーストラリアでの長期間の実験が決定し、旅費を確保するため。
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