研究実績の概要 |
鉄合金の粒界における溶質元素の偏析挙動は、粒界整合性、温度、溶質原子間の相互作用など様々の因子に影響される。本研究では、粒界の整合性を考慮したうえで、従来使われてきたオージエ電子分光法の代わりに、粒界面の脆性破壊を必要としない三次元アトムプローブを用いることで、粒界偏析量を定量評価することを目的とした。 今年度にはFe-0.01P(mass%)合金をベース材とし、それぞれCまたはMoを添加した合金を用い、フェライト粒界におけるPの平衡偏析挙動におよぼす合金元素添加の影響を調査した。均質化処理された各合金を冷間で圧延を施し、フェライト単相域である500~700℃の温度域でPの粒界偏析が平衡状態になるまで焼鈍処理後、水冷することで組織を凍結した。得られたフェライト組織を電子線後方散乱法測定および集束イオンビーム加工による断面観察を行うことで粒界の方位差および面方位を評価した。Fe-P二元合金の600℃, 24h焼鈍材において、アトムプローブで粒界偏析を測定した結果、従来の知見と同様に大角粒界におけるPの偏析量と比べて小角粒界で偏析量が少なく、粒界偏析におよぼす粒界整合性の影響はかなり大きいことがわかった。また、焼鈍温度が低いほど、大角粒界におけるPの偏析量が増加することも確認された。 一方、600℃焼鈍材において粒界整合性を揃えてCとMo添加の影響を調査したところ、13ppmCの微量添加でもPの粒界偏析量が減少することがわかり, Moを0.5mass%添加してもPの粒界偏析量は減少しなかった。Pの粒界偏析量からMcLeanの式を用いて各合金におけるPの偏析エネルギーを求めた。C添加によるPの偏析エネルギーの低下は、P-C間の強い斥力型の相互作用で説明でき、Mo添加でPの偏析エネルギーが変化しないのは、P-Mo間にほとんど相互作用が存在しないことから理解できる。
|