形状記憶合金のマルテンサイト組織において,マルテンサイト変態時により組織が形成される際に変態初期に形成される構造を決定している支配因子を解明することを目的とし,幾何学的解析および第一原理計算を実施した.初期構造は二つのマルテンサイトバリアントのペアにより構成されること,初期構造の体積が極めて小さく,組織形成時におけるエネルギー障壁の弾性歪エネルギー項の影響が小さいことを考慮し,エネルギー障壁の支配的な項である二つのマルテンサイトバリアント間の双晶界面の界面エネルギーをTiNi形状記憶合金のマルテンサイト組織において第一原理計算により解析した.TiNi形状記憶合金のマルテンサイト組織に結晶学的に存在しうる双晶界面の界面エネルギーを比較すると,おおよそ200mJ/m2前後の値を示し,初期構造に必ず含まれる{-111}双晶界面の界面エネルギーは全双晶界面の界面エネルギーの中で最小の値を示した.しかしながら,双晶ごとの界面エネルギーの差は数十mJ/m2と小さく,界面エネルギーだけで初期構造の選択性を説明することはできなかった.そこで,初期構造形成時に組織に発生する弾性歪を幾何学的解析により定性的に見積もると,{-111}双晶の弾性歪が最小であり,{-111}双晶は最小の弾性歪エネルギーと界面エネルギーを有する構造であり,当初の予測とは異なるが,弾性歪エネルギーと界面エネルギーの両方が初期構造形成時の選択性に影響を与えていることが明らかとなった.
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