研究課題/領域番号 |
17K14845
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研究機関 | 岐阜工業高等専門学校 |
研究代表者 |
本塚 智 岐阜工業高等専門学校, その他部局等, 准教授 (30585089)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | メカノケミカル / 電磁鋼板 / 変形集合組織 / 表面潤滑 / 界面 |
研究実績の概要 |
申請者は鉄粒子と黒鉛を酸素雰囲気下でボールミル粉砕すると、鉄粒子に磁気特性に優れた{100}<0vw>変形集合組織が形成されることを発見した。本組織の形成には、粉砕中に黒鉛による鉄粒子表面の潤滑が重要であり、集合組織の配向性は潤滑度に比例して高まる。この黒鉛の潤滑性は、元の鉄粒子表面ではなく、粉砕によって現れる鉄粒子表面の新生面と雰囲気酸素の反応で生成する酸化膜の表面で発現する。これは種々の塑性加工法の中でも、ボールミル粉砕のみが持つ特徴であり、被加工物の新生面形成量が極めて大きいことに起因する未知の現象である。本研究の目的は、「酸化膜による黒鉛の潤滑性の発現機構」を解明し、磁気特性に優れた変形集合組織を有する鉄粒子を創出するための新しい加工プロセス開発指針を導出することである。 平成29年度はTEM観察に取り組んだ。鉄粒子は強磁性体であるため、一般にTEM観察は難しい。さらに、本研究の場合は、積層した鉄粒子の断面という、非常に限定された領域を観察する必要があり、さらに難度が高くなる。試料の固定方法を工夫することで、一部の試料においては、界面観察するに至った。 走査型摩擦力顕微鏡による摩擦係数の定量化に取り組んだ。その結果、摩擦係数という定量的な指標で、粉砕によって黒鉛が被覆された鉄粒子表面の摩擦係数が、粉砕雰囲気によって変化することを明らかにすることができた。 さらにXANESで鉄粒子表面に被覆された黒鉛の配向状態を分析・評価した結果、粉砕雰囲気によって黒鉛の配向性が変化し、酸素雰囲気下で粉砕された鉄粒子表面の黒鉛の方が、Ar雰囲気下の粉砕で得られる黒鉛よりも、配向性が高いことを明らかにした。すなわち、黒鉛と鉄粒子の界面の酸化物が、黒鉛の配向に影響を与えるという仮説を強く支持する結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
走査型摩擦力顕微鏡による表面摩擦係数の測定の結果、酸素雰囲気下で粉砕された鉄粒子表面の摩擦係数は低く、Ar雰囲気下で粉砕された鉄粒子表面の摩擦係数は相対的に高いことを定量的に確認することができた。さらに、XANESによる表面分析の結果、酸素雰囲気下で粉砕された鉄粒子表面の黒鉛は、Ar雰囲気下で得られるそれと比較して、配向性が高いことが分かった。すなわち、黒鉛と鉄粒子の界面の酸化物が、黒鉛の配向に影響を与えるという仮説を強く支持する結果を初年度から得ることができた。さらに、TEMによる直接観察にも一定の目途が立った。以上より、当初の想定より1.5倍程度の進捗が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
TEMによる黒鉛の配向の直接観察を推進する。並行して分子軌道計算による実験結果の理論的な裏付けを得る。具体的には、鉄/酸化物/黒鉛の界面の電子状態を明らかにし、界面がどのように黒鉛の配向に影響を及ぼすのかを明らかにする。分子軌道計算においては、鉄粒子最表面の結晶方位を定義することが必要であり、これについてTEMによる直接観察の結果をフィードバックして、計算モデルの構築を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
一部購入予定だった機器を共同研究先で借用することで予算が抑制されたが、研究の円滑な進行のため、30年度には購入の予定である。また、外部機器の利用料も、想定より早く良好な結果が得られたため、支出が抑制された。
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