金属や金属酸化物のナノ粒子が高濃度に分散した懸濁液である高濃度ナノフルイドは,ナノインクへの応用などが期待される新たな機能性流体である。高濃度ナノフルイドのナノインクへの応用には,その濡れ挙動,特に先行薄膜を含む微視的な濡れ挙動の解明が重要である。そこで本研究では,マイクロスケールからナノスケールの液膜の膜厚分布を測定可能なマルチスケール位相シフト光学システムを開発し,高濃度ナノフルイドの微視的濡れの動的挙動解明を目的とする。 昨年度までにマルチスケール位相シフト光学システムの開発,およびその妥当性検証を終え,Si基板上に液滴試料を滴下した際の微視的濡れの動的挙動の測定実験を進めた。試料には先行薄膜の先行研究で多く用いられてきたポリジメチルシロキサン(PDMS)と,表面をPDMSで修飾したSiO2ナノ粒子をPDMSに添加した懸濁液(一次粒径:14 nm,ナノ粒子濃度:1 wt%)を用いた。本年度は引き続き,これら試料の微視的濡れの測定実験を実施するとともに,微視的な濡れの特性評価を進めた。 得られた膜厚分布から動的接触角,先行薄膜長さを測定し,Capillary数との関係を整理した。本実験条件の範囲では,純PDMSと懸濁液はともに1°程度の動的接触角を示し,同Capillary数では懸濁液の動的接触角は純PDMSよりも大きく,またばらつきも増加した。このばらつきは液滴内部の粒子の影響と考える。一方,Capillary数に対する動的接触角の傾きは,純PDMSと懸濁液で同様の傾向を示した。また,先行薄膜長さには粒子添加の影響が表れなかった。これはナノ粒子がサブマイクロからマイクロメートルの凝集体を形成(動的光散乱法を用いて測定)し,先行薄膜領域に存在しなかったためと考える。よって,先行薄膜内に粒子が存在しなければ,先行薄膜長さには影響を及ぼさない可能性が示唆された。
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