本研究では、全固体アルカリ燃料電池(SAFC)の高性能化に向け、SAFCの水挙動、特に電解質膜内の水移動を定量的に理解するための水移動モデルの構築を目指す。研究開発当初は、SAFCにおける水移動モデルを構築し、モデル計算に必要な、アニオン伝導性電解質膜の各種物性値を実験により求める。水移動モデルをSAFC用パラメータを導入した燃料電池モデルに組み込むことで、電池性能の予測を行う。アルカリ型では、酸型のNafionに代表されるような標準膜材料が存在しないが、モデル計算から電解質膜の材料改良方向性を提案することを想定していた。 昨年度は、まずアルカリ型に展開する前段階として、作製に成功していた、厚さ6μmの超高分子量ポリエチレン多孔質基材にスルホン酸基容量が市販のNafion 211(厚み25μm)より2倍近く高いEW580パーフルオロスルホン酸 (PFSA)ポリマーを充填した細孔フィリング膜が、高温低湿度条件下でも高い電池性能を示すことを確認した。今年度は、実作動条件下における電解質膜の化学耐久性と高い電池性能の要因を明らかにするために膜内水透過性を評価した。電解質膜の化学耐久性では、開放起電力(OCV)保持試験を行い、110 ℃、30% RHの高温低湿度条件でにおいて、細孔フィリング薄膜はNafionより薄膜にもかわらず、Nafion膜と同程度のOCV保持性能を示した。これは、細孔フィリング膜ではラジカル耐久性の高いポリエチレン基材を使用したことや、基材の膨潤抑制効果により水素クロスオーバーを抑えたことが要因であると考えられる。また、水透過試験では、細孔フィリング薄膜はNafion膜より水透過度が高く、薄膜化により膜電極接合体全体で適切な水管理を行い、低湿度条件下でも高い電池性能を示していることを実験的に明らかにした。今年度得られた結果および各種評価系の構築は、SAFC用電解質膜を設計・評価する上での基盤になるといえる。
|