本研究では航空機主翼表面のひずみ分布を測定し、ひずみ分布情報から揚力分布を同定する技術を構築する。ひずみ分布測定には分布型光ファイバセンシング技術を適用し、揚力同定には逆推定ニューラルネットワーク(NN)を適用する。本技術を風洞試験により試験実証するのが最終目的である。 初年度の研究により、PC・ソフトウェア環境の整備と演算コードの実装を行い、ひずみから荷重の逆推定を行う数値解析プラットフォームを構築できた。これを用いてシミュレーションを行い、従来の有限要素法による逆解析と機械学習を用いた荷重同定の性能・特徴比較を行った。特にセンシング量やひずみ計測誤差が荷重同定精度に与える影響を明らかにした。NNを用いることでひずみ計測誤差による不安定性が解消されることを示せたが、これは従来の逆解析法の宿命的な欠点を克服することを示しており、学術的に高い価値のある成果である。工学的にも非常に有益な知見となったと考える。 光ファイバセンサを搭載した多舵面を有する翼模型を構築した。多舵面の制御により揚力分布を調整でき、揚力分布同定技術の効果を独創的な形で示せる。次年度(最終年度)に複数回の風洞試験を行い、光ファイバセンシングを活用した揚力分布同定技術の実証に成功した。数値解析と異なり、試験環境では不可避となる温度変化の影響下においても、リアルタイムで揚力分布を同定出来る適用性、およびその精度を定量的に示した。また当初の研究の狙いに加え、揚力と共に迎角を同定出来ることも実証出来た。観測情報と同定情報の間の(空力・構造的)相互作用に基づき、機械学習を用いたパラメータ同定を行った。本手法により、飛行状態を自律的に認識出来る“知能的な翼”の実現性が示されたと考える。 本研究の独創的な成果は、学術誌への投稿や学会発表を通じて広く発信した。
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