研究課題/領域番号 |
17K14885
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研究機関 | 大島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
中村 翼 大島商船高等専門学校, その他部局等, 准教授 (10390501)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大気圧プラズマ / 塗装剥離 / ストリーマ / 熱応力 / 数値解析 / 紫外線による塗膜固化(凝集) / プラズマ発生高電圧電源 |
研究実績の概要 |
平成29年度は,塗装された表面に大気圧プラズマ(以下,プラズマ)を照射する事で,その塗装が剥離し易くなるメカニズムに関する具体的な考察と,実用化に向け,実環境に暴露した塗装に対する本塗装剥離システムの評価の2件を主として行った。 塗装が剥離し易くなるメカニズムに関する具体的な考察では,これまでの研究成果より推測された,塗装の凝集(内部応力)および熱膨張係数の違いによる熱応力の影響に関して,ANSYS(R 15.0)を用いて数値解析を行なった。その結果,塗装された表面に一様の熱入力(353 K)があった場合,アクリル母材と塗装界面において,1MPa以下の剪断応力が発生する結果となった。これを単純に換算すると0.1 kN以下の応力が全体に加わったことになる。この数値は実際に塗装を剥離させた荷重約2.3 kNと比較すると小さいため,塗装剥離の要因であるとは考え難い。次に,実験結果から考察し,ストリーマによる熱入力が起因し,塗装が剥離し易くなったと仮定した。その結果,ストリーマ直径0.5 mm,ストリーマ間距離1.41 mm,ストリーマの熱入力323 Kとした時,局所的に熱応力が最大で1.34 MPa発生した。これによりストリーマによる熱応力が起因して塗装が剥離し易くなったと推測された。 実環境に暴露した塗装に対する本塗装剥離システムの評価では,本校敷地内の北側と南側に向かって塗装したサンプル(素地はアクリル板)を設置した。そのサンプルを一ヶ月間,実環境に暴露した後,プラズマを照射し塗装を剥離させた。その結果,プラズマを照射したサンプル(北側・南側)の剥離率は約90%,その剥離に必要な荷重は約2.4 kN,プラズマを照射していないサンプルは剥離率約90%,剥離荷重約2.0 kNと大きな差異が得られなかった。この原因として考えられたのが,紫外線による塗装固化が挙げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度(初年度)の研究成果から,プラズマを塗装した表面に照射することで,その塗装が剥離し易くなるメカニズムに関する具体的な考察を行うことができた。現段階では,適度な大きさのストリーマによる熱入力が起因して,熱膨張係数の違いによる熱応力が原因で,塗装が剥離し易くなった,と具体的な仮定を立てることができた。この要因を検証するため,平成30年度に発光分光分析システムの導入,プラズマを生成するリアクタ部分の改良に向けた設計を行っている。 また平成29年度に検証することができなかった,実環境に暴露した塗装に対する本と総剥離システムの評価に対して,一ヶ月ではなく,数日・数週間といった比較的短期間での評価を行うため,情報交換を重ねながら,準備・計画を進めている。 最後に,国内・国際会議での発表に向けた準備も進めており,平成29年度に投稿した学術論文の査読結果を待っている。 以上の事から,研究の目的の達成度は「おおむね順調に進展している。」と言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究成果として,塗装された表面にプラズマを照射する事で,その塗装が剥離し易くなるメカニズムとして,ストリーマによる熱入力が起因している可能性が示唆された。この仮定を検証するために,平成30年度に株式会社クレブが大阪大学と産学共同開発した,発光分光分析システム(Plasma Emission Monitoring; CrevPEM)を利用する。このソフトウェアを導入する事で,今まで計測する事ができなかった電子温度や電子密度等を求める事ができる。これらプラズマパラメータが求まる事で,生成した大気圧プラズマの熱エネルギーが塗装面または,その雰囲気中に与える影響を試算する事が可能となる。これにより,塗装またはサンプルに加えられる熱エネルギーを求める事ができ,熱膨張係数の違いによる熱応力の影響を定量的に評価する事ができると考える。 また平成29年度に検証することができなかった,実環境に暴露した塗装に対する本と総剥離システムの評価に対して,一ヶ月ではなく,数日・数週間といった比較的短期間での評価を行う等,国内外の研究会に参加して情報交換を重ねる事で準備・計画を立てていく。 最後に,これまでの研究成果を国内・国際会議等で発表することや,オープンキャンパス等の機会を利用して小中高の生徒が分かり易く理解できるような出前授業等を企画していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度,株式会社クレブが大阪大学と産学共同開発した,発光分光分析システム(Plasma Emission Monitoring; CrevPEM)一式,およびNIST原子スペクトルDB取得ツール等の購入(概算で130万程度),また国内外での発表を計画しているため。
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