最終年である令和元年度(平成31年度)も,塗装された表面に大気圧プラズマ(以下,プラズマ)を照射する事で,その塗装が剥離し易くなるメカニズムに関する考察を具体的に検証した。 本研究はプラズマ発生用高圧電源を用いて,誘電体バリア放電でプラズマを生成する。昨年度までの成果として,この生成したプラズマを塗装された表面に照射することで,その塗装が剥離し易くなる要因として,ストリーマによる熱応力(架橋反応による塗膜の凝集)とナノ秒で生成と消滅を繰り返すストリーマ形成に伴うチッピングの衝撃が要因と考えた。そこで今年度は,この要因を定量的に検証するための研究を展開した。 プラズマ生成時の印加電圧を6kV,10kVとし,塗装後とプラズマ照射後のひずみの比較した結果から,プラズマ照射前と比較すると,印加電圧が6kVの時はプラズマを照射するとひずみが約50%大きくなる(縮む)。それとは逆に,10kVの時はひずみが25%程度,小さくなっていた(伸びる)。このことから,プラズマを照射することで熱入力が起因して,塗膜内部で架橋反応が生じ,これにより塗膜の凝集または軟化が起こったと推測した。 次に,印加電圧6 kV および10kV 時の分光計測の結果から,二線強度比較法を用いて,電子温度の推定を行った。印加電圧が6kVの時を基準とした相対電子温度で比較したところ,印加電圧が高くなっても,電子温度はほとんど変わらない結果となった。この結果を踏まえると,塗膜凝集力の説明(整合性)に矛盾が生じる。そこで,ひずみ測定の結果と電子温度の推定結果を踏まえ,熱応力以外の要因を推測した。その結果,プラズマを塗装した表面に照射することで,熱応力による架橋反応およびチッピング現象の双方が作用し,その塗装が剥離し易くなったと考えられる。しかし明確なメカニズムの解明には至っておらず,引き続き,検証を重ねていく。
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