研究課題/領域番号 |
17K14896
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
薮内 敦 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (90551367)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 陽電子消滅分光法 / 陽電子寿命 / 陽電子消滅ガンマ線ドップラー広がり / 原子空孔 / 格子欠陥 / 照射誘起欠陥 / 核融合 / プラズマ・壁相互作用 |
研究実績の概要 |
近年、第一原理計算に基づく研究で予測されているタングステン(W)中における原子空孔同士の反発について検証するため、純度5N(99.999%)のWに対し電子線照射により原子空孔を導入し、その回復挙動を陽電子寿命分光法により調べた。はじめに5N-W試料を真空中で2000℃で焼鈍後に陽電子寿命を測定し、2000℃での焼鈍により格子欠陥が除去されることを確認した。次に、2000℃で焼鈍した5N-W試料に対し、温度100℃程度で8 MeV電子線照射を行い原子空孔を導入した。低照射(1E18 e-/cm2)試料と高照射(5E19 e-/cm2)試料の2種の試料を作製した。これらの試料に対し温度50℃ステップで15分間ずつの等時焼鈍を行い、各温度で焼鈍後に室温で陽電子寿命測定を行った。その結果、低照射試料では欠陥成分の陽電子寿命に大きな変化は見られなかったが、高照射試料では焼鈍温度400℃から欠陥成分の陽電子寿命の明確な増大が観測された。これはW中においても他の金属と同様に焼鈍により原子空孔同士は結合(集合)していくことを示している。一方で本研究では、過去に報告されているW中の単原子空孔での陽電子寿命よりも20 ps以上短い陽電子寿命を持つ欠陥の存在も観測され、W中の侵入型不純物(炭素C、酸素O、窒素N)と単原子空孔が結合した欠陥複合体の存在が示唆された。陽電子寿命の第一原理計算からも、W中の単原子空孔にCやO、Nが結合するとその陽電子寿命は22-25 ps低下することが確かめられた。 また、Wに希ガスイオンを照射した際に形成される欠陥の回復挙動の照射イオン種依存性を低速陽電子ビームを用いて評価した。その結果、ヘリウムイオン照射とネオンイオン照射では焼鈍による照射誘起欠陥の発達の様子に違いがあることが見出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
線源法を用いた電子線照射試料の陽電子消滅測定、低速陽電子ビームを用いたイオン照射試料の陽電子消滅測定とも遂行され、実験データが揃いつつある。電子線照射試料の分析では予期していなかった陽電子寿命成分も観測されたが、当初の計画には含まれていなかった陽電子寿命の第一原理計算も併せて実施することで、予期していなかった陽電子寿命成分をもたらした要因を推定することができた。
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今後の研究の推進方策 |
タングステンへの希ガスイオン照射ではヘリウムイオン照射とネオンイオン照射で照射誘起欠陥の焼鈍過程における発達の様子に違いが見られている。今後はアルゴンイオン照射の場合との比較や、タングステン以外の高融点金属へヘリウムイオンを照射した際の欠陥構造の違いを比較していく。イオン照射試料の陽電子消滅測定では低速陽電子ビームを用いた消滅ガンマ線ドップラー広がり法を用いることから、実験データの解釈に役立てるために消滅ガンマ線エネルギー分布の第一原理計算の実施も検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品の消費量変動の理由で数千円の次年度使用額が生じた。これについては次年度の消耗品購入に充当することとしたい。
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