中性子照射により核融合炉第一壁材料中に照射欠陥を形成させ、重水素プラズマ曝露や重水素ガス曝露を行い、その昇温脱離挙動や滞留挙動などを実験的に評価した。 特に重水素曝露環境では、重水素ガス曝露時間の増加に伴い、重水素原子の材料への侵入深さは増加するが、照射欠陥が導入されると重水素を捕捉するため侵入深さは減少する。一方、重水素の滞留量は照射欠陥による捕捉により増加する。また、温度上昇に伴い、材料内に溶解する重水素、照射欠陥に捕捉された重水素の順に移行が始まり、これらの移行現象の重畳により重水素の脱離挙動は決まる。従って重水素の脱離挙動は、ガス曝露中及び昇温中の重水素の濃度・深さ・脱捕捉エネルギーの時間変化関数で表現される。 本研究では、これらの移行現象を全てモデル化し、材料内部への重水素原子の侵入及び移行についてシミュレーションコードを作成し、実際の実験結果を再現するパラメータの探索を行った。 本コードにより重水素の滞留量及び脱離温度の再現を達成した。しかしながら、重水素の脱離速度が高温領域までテイルしてしまう問題が確認され、これは、モデル中に照射欠陥の消滅挙動が組み込まれていないことが原因と推定された。これを取り入れた改良コードにより重水素の脱離挙動を再現することができ、本モデルの合理性が確かめられた。 本シミュレーションにより、照射欠陥からの重水素の脱捕捉エネルギーは1.8 eVであり、炉環境でのトリチウム蓄積量を予測するための重要な物理定数を得ることができた。 さらに本コードを利用することで、炉のメンテナンス時における炉壁からのトリチウム除染についてのシナリオ検討を行った。最もシンプルな除染手法として、水素同位体ガス導入による同位体置換について検討し、同位体置換によりトリチウム除去速度が増加するものの、トリチウムの完全な除去には不十分であることが示唆された。
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