放射線計測に関する研究は、近年快活化しています。プラスチックを基にした波長変換材は、測定対象となる光の波長を受光対象が検知可能な波長へと変換する素子です。それらは、プラスチックに微量の蛍光剤を数種類添加することで生み出され、その柔軟な加工性により様々な分野で利用されてきました。 特に、原子力・放射線を取り扱う施設や医療機関での安全管理において、芳香環ポリマーをベース材とした波長変換材は、シンチレーション物質として必要不可欠な放射線計測素子の一つとなりました。しかしながら、その性能は、定説の波長変換機序が課す製造過程における蛍光剤への制約により、長きに亘り停滞を余儀なくされていました。 これらの情勢を踏まえて、二年間に亘る本研究では、従来と異なる製造条件として、プラスチックシンチレーション物質のベース材として典型的な芳香環ポリマーに、その蛍光分布の波長領域から外れる吸収スペクトルを有する、すなわち従来適さないとされていた蛍光剤を一種添加した上、蛍光剤の分子間距離を制御しました。その結果、実用レベルでの標準値を上回る性能を実現する共に、波長変換機序の深化を果たしました。 本成果は、新しいタイプの放射線計測素材の開発への道を切り拓くと同時に、多様な応用を創出したものです。
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