研究実績の概要 |
大強度陽子加速器施設J-PARCにおいて、3GeVに加速された陽子ビームを水銀標的に照射し、ビーム進行方向から180度方向に放出される中性子のエネルギースペクトルを測定した。測定には小型の液体有機シンチレーション検出器を用い、飛行時間法によってエネルギースペクトルを決定した。測定で得られたエネルギースペクトルを放射線挙動解析コードPHITSに組み込まれている核反応モデルによる解析結果と比較した。比較の結果、過去のPHITSの標準仕様モデルは実験値を過大評価する一方で、最新の標準仕様モデルは実験値をよく再現することを明らかにした。さらに、本測定結果のクロスチェックを目的として、インジウム及びニオビウム箔を用いた放射化法による中性子収量の測定を実施した。放射化法による測定結果の傾向は飛行時間法による測定結果の傾向と一致することを示し、飛行時間法による中性子エネルギースペクトル測定結果が妥当であることを明らかにした。上記の実験の成果は、加速器駆動核変換システムの研究開発における遮蔽設計の高度化及び大強度中性子源施設における将来の中性子利用の開拓に貢献するものである。本成果を学術論文としてまとめ、学術誌Nuclear Instruments and Methods, Section Bに投稿し、公開された。 さらに、核破砕反応を記述するモデルのうち、高エネルギー核分裂に関するモデルを提案し、これをPHITSに組み込まれている核分裂モデルに組み込んだ。実験値との比較の結果、新たに組み込んだモデルは実験値を従来よりも精度良く再現できることを示した。このモデル改良の成果を学術論文としてまとめ、学術誌Journal of Nuclear Science and Technologyに投稿し、公開された。本研究成果により、日本原子力学会2020年度核データ部会賞学術賞を受賞した。
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