研究課題/領域番号 |
17K14922
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平山 尚美 大阪大学, 理学研究科, 特任研究員(常勤) (70581750)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 熱電発電 / 第一原理計算 / 物性理論 / 不純物ドーピング / マグネシウムシリサイド / カーボンナノチューブ |
研究実績の概要 |
2018年度は、 環境低負荷な熱電物質の開発を目指し、中温度域での発電に適したマグネシウムシリサイド(Mg2Si)と、室温付近の発電に適したカーボンナノチューブに着目して、これらの物質の熱電性能向上に向けた理論研究を行った。 Mg2Siに関する研究では、格子定数の増加に伴う熱電性能向上のメカニズムの解明と、それに基づく材料開発指針の提案を行った。先行研究から格子定数の増加によりn型Mg2Siのゼーベック係数が最大で2.5倍に増加することが分かっていたが、その理由は明らかになっていなかった。そこで本研究では、格子定数の異なる系に対して第一原理計算を行い、それらの電子状態を比較したところ、格子定数の増加が伝導帯の底を形成するバンド間の距離を縮め、ある格子定数のときにバンド縮退を引き起こすことが分かった。さらに、ボルツマン輸送理論に基づく熱電係数の計算から、バンド縮退時にゼーベック係数が大きく上昇することを示し、上述した格子定数増加に伴う熱電特性の向上は、伝導帯のバンド縮退に由来することを明らかにした。そして、この効果により、実際の系で熱電性能向上を実現する方法として、不純物ドーピングによる格子定数変化を利用する手法を提案した。 また、カーボンナノチューブの研究では、熱電特性に対する空孔欠陥の寄与を、第一原理計算により調査した。研究の第一段階として、サイズの小さい(8, 0)-カーボンナノチューブを対象とし、長手方向にユニットセルが30倍繰り返された構造を作成して、電子状態計算と輸送特性の評価を行った。その結果、カーボンナノチューブのtransmission spectrumは空孔欠陥の濃度のみならず、その空間分布にも強く影響を受けることが示された。今後は、これまでに得られた第一原理計算のデータを基に、機械学習の手法を用いて、より大きい系の空孔欠陥分布の影響を調査する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
第一原理計算を用いた理論研究により、熱電材料の設計指針を得る研究は順調に進展している。1年目である2017年度はシリサイド材料の研究が主だったが、2018年度からはカーボンナノチューブの研究にも着手し、電子状態計算、熱電特性計算に向けて必要な計算コードの導入と計算パラメタの設定などを完了し、第一原理計算による物性データの取得を概ね完了した。一方で、当初はKKR-CPA法に基づく熱電計算を予定していたが、計算手法を検討した結果、本研究の目的にはDFT計算が適していることが分かったため、現在はこの手法に絞って研究を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2018年度に行ったMg2Siの熱電特性の格子定数依存性の研究について、論文出版の準備を進める。また、本研究から得られた知見に基づく新規熱電材料を提案するため、不純物ドーピングを利用する方法について、さらに検討を進める予定である。 カーボンナノチューブの研究については、これまでに得られた電子状態計算と熱電輸送特性のデータを基に、ベイズ統計による機械学習の手法を用いて、空孔欠陥分布とキャリア輸送の関係を明らかにする。そのためには、まず本研究に適した機械学習の手法を選定する必要があり、すでに機械学習の専門家と連携して検討を進めている。機械学習の手法を確立した後は、必要に応じて第一原理計算により物性データを取りながら、機械学習で上記の課題に取り組む。 また、本年度は、熱電輸送特性における有限温度効果やフォノンの影響についても研究する予定であり、現在、その手法について検討している。
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