研究課題
マグネシウムシリサイド(Mg2Si)は、負圧により熱電性能が向上することが理論的に予想されている。これは主にゼーベック係数の増加によるものであり、フェルミエネルギー付近のバンド分散の変化が原因であることが先行研究により示唆される。本研究では、熱電性能向上に向けた新しいアプローチとしてこの体積効果に着目し、詳細なメカニズムの解明を行なった。格子定数の変化によるキャリア輸送特性への影響を定量的に評価するため、FLAPW法に基づく全電子計算の結果から、伝導帯端の有効質量を求めた。その結果、格子定数の増加は有効質量の増加をもたらし、その結果として、300 K~900 Kの温度範囲でゼーベック係数が2倍程度増加する事が分かった。さらに、この有効質量の変化を、伝導帯の底を形成する2つのバンドの挙動から説明した。すなわち、格子定数の増加に伴い両者は接近し、ほぼ混成せずにエネルギー軸に対して上下に入れ替わる。これらのバンドはX点において回転楕円体状の等エネルギー面をもつが、もともと下側にあるバンドはtransverse方向の有効質量が比較的大きく、一方、上側のバンドはlongitudinal方向の有効質量が大きい。格子定数がある大きさになると、これらのバンドは有効質量をほとんど変えずにすれ違う。その結果、transverse方向にもlongitudinal方向にも大きな有効質量が実現し、結果としてゼーベック係数が増加することを明らかにした。さらに、本研究から、結晶の対称性を変えない等方的な体積変化の場合に、このような熱電性能向上が得られることが分かった。したがって、上記のメカニズムに基づく熱電性能向上を実現するためには、外力による変形よりも、不純物原子をできる限り均等に添加し、その圧力により結晶を膨張させるといった、化学圧力を利用する方法が有効であると考える。
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