マウスゲノム最大の遺伝子ファミリーを形成する嗅覚受容体は、系統学的に、魚類まで保存されたファミリーを含むClass I(水棲型)と、陸棲生物特異的なClass II(陸棲型)に分類される。Class II 遺伝子がほぼすべての染色体上に散在しているのに対して、Class I遺伝子は約300万塩基対の単一の巨大遺伝子クラスターを形成する特徴的なファミリーである。嗅神経細胞における「1細胞1受容体」ルールから、Class I 遺伝子クラスターを支配する共通の発現制御領域の存在が推定されているが、同定には至っていなかった。本研究課題では、発現制御領域を同定し、さらにその機能を明らかにすることで、他に類を見ない巨大遺伝子クラスターを形成するClass I 嗅覚受容体遺伝子の発現制御機構を解明することを目的とした。 マウス遺伝学的手法や情報学的解析により、Class I 遺伝子クラスターを制御する新たな嗅覚受容体遺伝子発現制御領域「Jエレメント」の同定に成功し、エンハンサーを介した嗅覚受容体遺伝子の発現制御モデルを提唱した。Jエレメントはこれまでに例のない長距離作用性エンハンサーであるため、その制御機構の解明を目指し、Jエレメントならびにその他推定制御因子の機能解析を実施した。Jエレメント以外のClass I 遺伝子発現制御領域の同定には至らなかったが、Jエレメントのさらなる機能解析から最小機能領域の特定に成功した。以上、本研究課題では初めてClass I 嗅覚受容体遺伝子を制御するエンハンサーを明らかにし、その遺伝子発現制御機構の一端を明らかにした。
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