研究実績の概要 |
左右性の分子遺伝基盤について、鱗食魚の終脳、視蓋および後脳を用いて、網羅的遺伝子解析のRNA-seqとq-PCRで追試を行い、左右半球の間で有意に発現量の異なる5つの遺伝子(pkd1b、ntn1b、ansn、pde6g、rbp4l1)を見いだした。 pkd1bおよびntn1bは、それぞれNodal遺伝子とNetrin遺伝子に関係し、それらは初期胚における身体の左右非対称の形成にとって必須であることが知られている。私たちの結果は、Nodal遺伝子やNetrin遺伝子が成魚の脳においても、左右差の維持に重要な役割を果たすことを示唆している(Comp Biochem Physiol D. 28: 99-106, 2018)。 左右性の進化を検討するため、タンガニイカ湖の南に位置するマラウィ湖のヒレ食性シクリッドGenyochromis mentoの左右性を調べた。下顎骨の左右差を計測し、捕食行動実験を行った。左右の下顎骨の高さの違いを計測したところ、その頻度分布は左右対称の個体がほぼいない二山型を示し、個体群中に右利きと左利きがいることが分かった。左右の下顎骨の高さの違いは平均3%で、鱗食魚の8%よりも有意に小さかった。次にG. mentoの捕食行動を水槽内で1時間観察した。G.mentoは餌魚の尾ビレに頻繁に噛みついて摂食し、観察を行った半数以上の個体で襲撃方向に好みがあったが、全個体両方向からの襲撃が見られた。また、この襲撃方向の偏りは開口方向と対応があった。鱗食のP. microlepisでは専ら餌魚の一方向から襲うことから、ヒレ食魚も形態・捕食行動に左右性をもつが、鱗食魚ほど顕著化していないと考えられる(J Exp Biol. 222: jeb191676, 2019)。
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