研究課題/領域番号 |
17K14939
|
研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
北西 卓磨 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 講師 (90722116)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 前障 / 嗅内野 / 大規模細胞外計測 / 光遺伝学 |
研究実績の概要 |
前障は大脳皮質の全域と相互に連絡する脳深部の領域である。この特異な投射様式から、前障は何らかの高次脳機能を担うと推察されてきたが、その具体的な機能は長年にわたり謎だった。研究代表者らは近年、前障が空間記憶に重要な内側嗅内野にとりわけ強く投射し、記憶を調節することを見出した。本研究は、この前障→内側嗅内野の経路における情報伝達の実態を、げっ歯類における大規模細胞外計測と光操作により解明することを目的としている。前障が、内側嗅内野における格子細胞・頭方向細胞などの空間表象にあたえる影響を明らかにするため、これらの細胞が多く分布する内側嗅内野の表層から細胞外計測をおこない、さらに、前障→嗅内野経路を光遺伝学的に活性化した。動物がオープンフィールドにおいて空間探索行動をおこなう際の神経活動を解析したところ、光照射の有無によらず、格子細胞・頭方向細胞は安定した空間発火パターンを保ち、光操作による顕著な影響を受けなかった。こうした結果となった理由にはいくつかの可能性が考えられる。第一に、前障は細長い形状をした脳領域であり、光操作が前障の全域に至らなかった可能性が考えられる。第二に、前障は内側嗅内野の深層にとくに強く投射することから、(表層ではなく) 深層の神経細胞のみに選択的に影響を与える可能性も考えられる。今後は、上記の点を考慮して実験方策を最適化しつつ、さらなる検証をおこなう必要があると考える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに、前障→内側嗅内野経路の光活性化が、内側嗅内野表層の格子細胞・頭方向細胞に与える影響を検証した。これは、ウイルスベクター・光照射・多点細胞外計測・行動試験を組み合わせたチャレンジングな実験であり、この実験系を確立できたことは当研究における重要なステップである。現在までのところ、光操作による顕著な影響を見出すには至っていないが、内側嗅内野表層の空間表象が頑健であるという結果は、今後の研究の推進方策を考えるために重要な知見であり、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
前障→嗅内野経路をより確実に光操作するために、ウイルスベクターの系を改善する。近年、強力な逆行性感染能をしめす組替アデノ随伴ウイルスベクターが開発されており、これを取り入れる。また、細胞外計測を大規模化し、内側嗅内野の表層と深層を同時に計測する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
多点電極を再利用する技術が向上したため、当初の想定よりも電極の購入数が減り、次年度使用額が生じた。次年度は、実験系の最適化のために幾つかの検討 (ウイルスベクター、多点計測の大規模化等) が必要となるので、繰り越した分はこれに充てる。また、翌年度分として請求した助成金は、下記の各種費用として使用する:実験動物費・手術用具費・光学部品費・大規模データのストレージ費・その他の一般試薬費・旅費。
|