研究課題/領域番号 |
17K14940
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大塚 信太朗 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 特任助教 (30772397)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | Cbln1 / GluD1 |
研究実績の概要 |
Cbln1-GluDシグナルは小脳平行線維-プルキンエ細胞のシナプスの形成及び機能において必須の役割を果たす。これらの分子は海馬シナプスにも発現し、海馬依存的な空間・恐怖学習に必要であることも分かっているが、どのようにシナプス機能を制御するかは分かっていない。本研究は貫通線維-海馬歯状回シナプスの機能を形態的および電気生理学的に明らかにすることを目的とした。 平成29年度の研究計画は①シナプス形成機構の解明および②シナプス可塑性制御機構の解明である。 ①に関しては免疫組織化学を用いて海馬歯状回分子層のPSD-95シグナル密度がCbln1欠損マウスでは有意に低下していることを見出した。さらにゴルジ染色および電子顕微鏡解析においても同様にシナプスの減少を示す結果をCbln1およびGluD1欠損マウスで得た。さらに電気生理学的解析を用いて貫通線維-海馬歯状回シナプスの神経伝達効率を調べたところCbln1およびGluD1欠損マウスでは減少が見られた。以上の事からCbln1-GluD1シグナルは貫通線維-海馬歯状回シナプスの形成に必須の役割を果たすことが明らかとなった。 ②に関しては海馬急性切片を作製し、ホールセルパッチクランプ法を用いてGluD1欠損マウスの貫通線維-海馬歯状回シナプスの可塑性解析を行った。その結果、野生型マウスと比べGluD1欠損マウスでは長期増強の程度が小さく、Cbln1-GluD1シグナルはシナプス形成だけでなく、シナプス可塑性にも重要であることが明らかとなった。 また平成30年度に計画していた成熟個体における神経新生でのCbln1-GluDシグナルの役割についても調べ、大人で新生した神経が既存の神経回路へ組み込まれるプロセスにもCbln1が関与すること、さらにこのシグナルが成体神経新生に依存的した記憶学習に必要である可能性が高いことも見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度に実施を予定していた実験内容の主要な項目を実施し、本研究の仮説を裏付けられる一貫した十分な確度の結果を得ることが出来た。平成29年度の一部の項目はまだ実施していないがこれは平成30年度に実施予定の「成体での新生神経での機能解析」の実施時期を繰り上げたためであり、着実に実施の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度で得られた結果が仮説通りであったため、実験計画は大幅に変更を加えず、海馬と貫通線維の投射元の嗅内皮質の接続様式のラベリング解析や阻害ペプチドを用いたin vivoにおける結合阻害実験、および成体神経新生でのCbln1-GluD1シグナリングのシナプス機能(形態・電気生理および行動)について引き続き解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は質の高い成熟個体の海馬急性切片を作製するためLeica製の標本作製用スライサーが必要だと思われていたが、実験手技の工夫により既存の堂阪イーエムのスライサーでも十分な品質の切片を作製できるようになったため他の物品を購入した。そのため実支出額が予定より少なくなった。 この差額分は平成30年度に電気生理の試薬に使用する予定である。
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