研究課題/領域番号 |
17K14947
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
細川 智永 京都大学, 医学研究科, 特定研究員 (30602883)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | synaptic plasticity / learning and memory / synaptic structure |
研究実績の概要 |
神経細胞のシナプスには多数のタンパク質が密集し複雑なシグナル経路を形成しているが、なぜ密集するのか、なぜ複雑な経路が破綻しないのかわかっていない。主要なシナプスタンパク質のカルシウム/カルモデュリン依存性キナーゼII(CaMKII)はキナーゼでありながらもキナーゼらしからぬ、構造タンパク質に類似した特徴も持っている。そこで我々はCaMKIIのキナーゼと構造タンパク質の二面性が、多数のタンパク質をシナプスに密集させ、同時に複雑なシグナル経路を制御している、いわばハブのような役割を果たしているという仮説を立てた。 SA1:T-site変異CaMKIIのアフィニティーカラムを用いて質量分析により神経細胞抽出物からT-site特異的な結合タンパク質を同定する。SA2:生化学・遺伝子改変手法により結合の確認、結合部位の同定、結合の結果として基質のリン酸化およびCaMKII活性の測定を行う。SA3:二光子顕微鏡下の海馬スライスを用いシナプス構造に摂動を与えるため単一スパインにLTPを誘導するグルタミン酸脱ケージ化手法を主軸とし、GFPを融合した候補タンパク質がLTP誘導によりスパインへ集積すること、その集積がCaMKIIに依存すること、T-site変異CaMKIIに候補タンパク質を集積させる能力が無いことを確かめる。さらにFRET FLIMにより結合を証明し、結合部位を欠損させた候補タンパク質を用いてこの結合がスパインの拡大と維持に必須であることを証明する。本研究は、シナプス構造の革新的なモデルとシナプス可塑性の新たなメカニズムを提案しつつ、CaMKIIの不自然な量の多さ・特徴的構造・無意味にも見える局在変化・高すぎる定常活性といった謎を合理的に説明するものである。将来的には、この新しいモデルの特性を利用し、創薬ターゲットの提案につなげていきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
SA1CaMKII T-site結合因子の網羅的探索:これまで我々はTIAM1とLIMK1の2つのアクチン制御経路にある情報伝達因子がいずれもCaMKII T-siteに結合し、活性化されることを示した。そこで本研究では網羅的にCaMKII T-siteに結合できるタンパク質を探索した。ラット海馬のPSD画分から野生型もしくはT-site変異体のI205K変異体のCaMKIIを用いて結合タンパク質を取得し、質量分析を行なった。その結果、既知の結合タンパク質であるNR2Bをはじめ、足場タンパク質として知られるDLGファミリー、その結合タンパク質であるDLGAPファミリーやSynGAPやShankなど神経疾患とかかわりの深いタンパク質がCaMKIIのt-site結合タンパク質として同定された。 SA2同定された分子のCaMKIIによる機能調節: SA1で同定されたタンパク質群をproteomicsならびにinformaticsの手法により順位付けし、信頼性の高いタンパク質についてcDNAを入手し、哺乳細胞発現ベクターを構築した。CoIPによる実験でDLGやSynGAPと有意に結合することが示された。また、CaMKIIのリン酸化基質を網羅的に探索するためCaMKIIに特異的な阻害剤を処理したサンプルを質量分析で解析した。CaMKIIによりリン酸化されるタンパク質の中には結合タンパク質として同定されていたものも多い。 SA3同定された分子のCaMKII結合によるシナプスへの集積およびその集積がシナプス構造変化(構造的LTP)に必須である証明:SA2により期待のできる候補分子が複数挙がってきている。シナプス機能に重要であることが既に分かっているSynGAPとCaMKIIの結合をFRETFLIMにより観察したところ、LTP誘導によりこれらの分子は速やかかつ強力に結合することが示された。
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今後の研究の推進方策 |
SA2同定された分子のCaMKIIによる機能調節:CaMKIIとの結合が候補タンパク質の機能変化を誘導するかどうかについて、候補タンパク質単独およびCaMKII存在下で活性を測定する。CaMKIIによる活性化が認められれば、それがT-site相互作用によるのか、またリン酸化を介するのかをCaMKIIのI205K変異体やキナーゼ活性がないK42R変異体で検討する。候補タンパク質側のT-siteとの相互作用をしない変異体を用い、CaMKIIが結合しなくなる事を示す。 SA3同定された分子のCaMKII結合によるシナプスへの集積およびその集積がシナプス構造変化(構造的LTP)に必須である証明:引き続きFRET-FLIMを用いてLTP誘導時の候補タンパク質とCaMKIIの結合を観察していく。特に、SA2によって同定された、結合タンパク質でありかつリン酸化基質でもあるような候補はPSDにおけるCaMKIIのハブ機能と密接にかかわっていると考えられるため、優先的に解析を進めていきたい。また、光照射によってN末とC末が切断されるタンパク質PhoClを用いてCaMKIIの12量体構造を破壊する実験を進めている。本研究のモデルが正しければ、スパインの縮小とシナプス機能の衰弱がみられるはずである。 さらに先の実験として、CaMKII局在の光制御の実験を進めている。本研究によると、シナプスの性質を決定する最も重要なファクターはCaMKIIの量であり、CaMKIIの局在を制御することでシナプスの性質を制御できると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
業者の安売り等を利用した結果、差額が生じた。 次年度は引き続き消耗品費に充当する。
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