梨状皮質は嗅球で処理された匂い情報を受け取り、様々な脳領域へ伝達する。梨状皮質内には樹状突起の形状が異なる複数の投射ニューロンが存在しているが、各ニューロンの投射様式はよく分かっていない。一方、梨状皮質と他の嗅覚関連領域との神経連絡は、多くが双方向的であることが知られている。嗅覚系伝導経路の理解を目指すにあたり、梨状皮質ニューロンがどのような情報を受け取るのかという点も重要な問題である。嗅球出力細胞の投射様式については、近年明らかにされたが、嗅球以外の脳領域から梨状皮質への入力様式についてはまだ十分に解析されていないのが現状である。そこで、梨状皮質内に逆行性トレーサーを注入する実験を行ったところ、興味深い所見が得られた。しかし、逆行性トレーサーは神経終末から取り込まれるだけではなく、終末を形成せずに通過する軸索線維から取り込まれてしまう可能性もある。そこで、所見を確実にするため、順行性標識による解析を試みた。レクチンや多糖類等の市販されている順行性トレーサーを用いると、注入部位周辺のニューロンが多数標識されてしまう。そのため、トレーサーが拡販する範囲よりも狭い脳領域からの投射については解析が難しい。また、注入量が一定ではないため、定量性のある所見を得るのも難しい。一方、ウイルスベクターは、感染した細胞だけを強く標識することが可能である。そこで、本研究では発現力の強いシンドビスウイルスベクターを微量注入し、少数のニューロンだけが標識された標本の作製を試みた。現在、目的の部位で10個以内のニューロンが標識された標本が複数得られており、軸索投射の解析を進めている。
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