研究課題/領域番号 |
17K14955
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中川 直 東北大学, 医学系研究科, 助教 (30707013)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ALS / TDP-43 / 細胞内凝集体形成 / RNA / RNase |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の発症過程において必須な役割を果たすと考えられているTDP-43タンパク質の細胞質凝集体は、ストレス顆粒と呼ばれる構造体に形成されることが明らかとなってきた。しかし、TDP-43のストレス顆粒への移行メカニズムは不明である。ストレス顆粒はRNAを核として形成されること、TDP-43はRNA結合タンパク質であることから、TDP-43に結合するRNAが細胞質凝集体形成に寄与すると仮定し、このRNAを分解することでTDP-43タンパク質の細胞質凝集体を減少させる方法を検証している。 申請者はすでに、試験管内において、RNaseA処理によりTDP-43の細胞質凝集体が減少することを確認している。しかし本来細胞外分泌タンパク質であるRNaseAが細胞質で機能するか不明であった。またどのRNaseA種がTDP-43の細胞質凝集体に作用しているか不明であった。細胞質内でTDP-43の凝集体を減少させることができるRNaseを探索するため、初めに細胞質で機能することが知られているRNaseLに着目したが、RNaseLはpH7.4の条件下で試験管内においてTDP-43細胞質凝集体への影響が検出されなかった。一方、同様の実験を至適pHが7.5と報告されているRNase4 (RNaseAファミリーの一員) で行ったところ、TDP-43の細胞質凝集体の減少効果が確認された。 次に細胞内においてRNase4がTDP-43結合RNAを分解するか調べるため、RNase4とTDP-43を融合させたタンパク質(TDP-43-RNase4)を細胞に発現させたところ、TDP-43結合RNAの減少が認められた。以上の結果からRNase4はTDP-43に結合するRNAを分解することが示唆された。 最後にTDP-43-RNase4の細胞質凝集体形成能が減少していることを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究計画では、TDP-43結合RNAをターゲットとした新規ALS治療法の開発を目指すことを目的としており、平成29年度ではその基となるRNaseの開発を行う予定であった。具体的には(1)TDP-43結合RNAを分解するRNaseの決定、と(2)TDP-43細胞質凝集体に集積するRNaseの開発、を目標に実験を遂行した。 TDP-43結合RNAを分解する至適RNaseに関しては、初めに細胞質内で機能することが知られているRNaseLに着目したものの、試験管内でTDP-43細胞質凝集体分解活性が認められなかった。しかしRNase4は試験管内でTDP-43細胞質凝集体分解活性が認められ、かつTDP-43と融合させることでTDP-43結合RNAを分解することが示された。このことからTDP-43結合RNAを細胞質で分解するRNaseとしてRNase4を同定することに成功した。 次にこのTDP-43-RNase4融合タンパク質がTDP-43の細胞質凝集体に集積するか調べる予定であったが、TDP-43抗体が内在性のTDP-43とTDP-43-RNase4を区別できないため、初めにTDP-43-RNase4の細胞内局在を、リンカー部分に用いたmycタグに対する抗体を用いて観察することとした。その結果TDP-43-RNase4は内在性のTDP-43とは異なり細胞質凝集体形成能がないことがわかった。このことからTDP-43-RNase4は自身のRNase活性によるTDP-43結合RNAの分解作用により、細胞質凝集体形成能を失っていることが示唆された。しかしTDP-43-RNase4がTDP-43の細胞質凝集体に集積することを確認するまでには至らなかった。 以上のことから、本研究が当初の予定と比較してやや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
TDP-43-RNase4がTDP-43の細胞質凝集体に集積するか調べるためにはTDP-43とTDP-43-RNase4を区別する必要がある。このため、タグを付加したTDP-43を発現する細胞を用意し、異なる抗体を用いることでTDP-43とTDP-43-RNase4を区別し、TDP-43-RNase4がTDP-43の細胞質凝集体に局在するか調べる予定である。TDP-43-RNase4に関してはRNase活性によるTDP-43細胞質凝集体への局在抑制が予想されるため、活性を欠いたRNase4変異体 (TDP-43-RNase4 mutant) を用いる予定である。TDP-43は通常核に存在するタンパク質であるが、仮にTDP-43-RNase4が核内にのみ局在し、TDP-43細胞質凝集体と共局在しなかった場合には、TDP-43の核移行シグナルを変異させ、細胞質局在を促す予定である。 次にTDP-43-RNase4 mutantのRNase4を野生型に変換し、TDP-43細胞質凝集体の減少または消失効果を検討する予定である。そのためにTDP-43-RNase4をテトラサイクリンで発現誘導することが出来る細胞を作製し、TDP-43の細胞質凝集体形成を引き起こした後にTDP-43-RNase4を発現させる系を確立する予定である。テトラサイクリンは転写を介してタンパク質の発現を誘導するため、このシステムを用いた誘導には早くとも6時間程度かかると思われる。より早い誘導が必要になれば、タンパク質レベルでの誘導が可能なオーキシンシステムによる発現誘導を試みる予定である。 TDP-43の細胞質凝集体が減少、または消失していることが確認できた場合、ALS患者由来iPSから分化させた運動神経を分与していただき、同様の効果がALS患者由来の運動神経においても認められるか検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
TDP-43のストレス顆粒への移行を確認する目的で、ストレス顆粒マーカーであるG3BP1、PABP-1抗体を購入する予定であったが、共同研究先から少量分与していただくことができたため、次年度使用額が発生した。 (使用計画) タグを付加したTDP-43を発現する細胞を用意し、異なる抗体を用いることでTDP-43とTDP-43-RNase4を区別する必要が生じたため、TDP-43に付加するタグに対する抗体を購入することに充てる予定である。
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