研究実績の概要 |
脳血管病変がアルツハイマー型認知症患者の認知機能を悪化させることは既に証明されているが, その具体的な機序については未だ不明な点が多い. 我々は以前に脳アミロイド血管症 (Cerebral amyloid angiopathy: CAA) と密接に関連する乏血や虚血が, Aβの沈着を促進させることを報告した. 今回我々は, 慢性脳低灌流やCAAがTau病理に与える影響を検討した. 我々は, 3ヶ月齢の変異Tau過剰発現マウスの右総頸頚動脈を結紮し, 脳血流を継時的に測定するとともに, 左右の海馬を病理学的に解析した. 続いて脳血流を増加させることが知られているDrug Xを変異Tau過剰発現マウスに投与し, Tau病理への影響を検討した. 更にCAAモデルマウスと, 変異Tau過剰発現マウスとを交配させ, ダブルトランスジェニックマウス (double-Tg) を作成し, CAAとTauの関連を検討した. その結果, 一側の総頸動脈結紮にて、脳血流は術前の約70%まで減少した. 8ケ月齢では脳血流量は非手術側の約90%であった. 閉塞側の海馬では, リン酸化Tauの蓄積が有意に亢進していた. 一方, Drug Xを投与したマウスではTauの蓄積が減少していた. double-Tgマウスでは, 脳血流量の減少や脳血管予備能の障害が再現された. double-Tgマウスは, 変異Tau過剰発現マウスに比して, リン酸化タウの沈着が, CAAモデルマウスに比してAβの蓄積が亢進していた. 行動試験にて, double-Tgマウスでは不安行動の異常と視空間記憶の障害が認められた. これらの実験から, CAAや慢性脳低灌流は, Tauの蓄積を増加させ, 対照的にDrug Xは脳血流を増加させ, Tauに有効である可能性が示唆された.
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