研究課題/領域番号 |
17K14965
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研究機関 | 東北医科薬科大学 |
研究代表者 |
長沼 史登 東北医科薬科大学, 医学部, 助教 (80780519)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 脳内ヒスタミン / 条件的遺伝子欠損法 / アデノ随伴ウイルス / 脳内微量注入法 |
研究実績の概要 |
本研究はウイルスベクター (AAV) の脳内微量注入により、ヒスタミン合成酵素 (HDC) および、代謝酵素 (HNMT) を欠損させ、脳局所においてヒスタミン量を増減させる。それに伴う表現型を解析し、脳部位毎のヒスタミン神経系の機能を明らかにすることが目的である。 本研究は、Cre-loxPによる条件的遺伝子欠損法を用いる。今年度は、HDC-flox、HNMT-floxマウスの作製と、繁殖ラインの確保をした。並行して、Creを発現させるAAVを作製した。まず、CreとmCherryを発現するプラスミドを作製し、293細胞にてパッケージングした。得られたAAV (AAV-Cre-mCherry) を精製し、十分な力価が得られたことを定量PCR法にて確認した。さらに、微量注入法を検討し、AAV注入後、標的脳部位のみでのmCherryの発現を組織学的に確認した。 次に、HNMT-floxマウスにAAVを投与し、表現型の解析を行った。HNMT全身欠損マウスでは、自発運動量の変化および、高い攻撃性が観察される。そのため、自発運動量の調節に重要な視床下部、攻撃行動に関与する扁桃体にそれぞれAAVを打ち込み、自発運動量の測定、resident-intruder testによる攻撃行動の検討を行った。 その結果、視床下部AAV-Cre-mCherry注入群において、対照群と比較し、暗期の自発運動量が増加傾向を示した。さらに扁桃体AAV-Cre-mCherry注入群において、攻撃時間が長い傾向が認められた。そのため、ヒスタミンは、視床下部において自発運動量の調節、扁桃体において攻撃行動の調節にそれぞれ関与していることが示唆された。今後、サンプル数を増やし、それぞれでの役割を明確にしたい。さらに、HDC-floxマウスも同様に検討を行うこと、他の脳部位においても検討を行うことが次の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度中に、HDC-floxマウス、HNMT-floxマウスの作製が終了し、今後の研究に必要とされるマウスを安定供給出来る繁殖環境を確保することが出来た。これに加え、実験に使用するAAVの元となるプラスミドの作製、AAVのパッケージング法および、その精製方法を確立することが出来た。次に、AAVの注入座標、注入量などの条件検討を行い、実際にHNMT-floxマウスの視床下部、扁桃体にAAVを注入し、標的脳部位にmCherryが発現することを確認し、表現型の解析まで行うことが出来た。これまでの研究で、マウス、AAVの作製、AAV注入と表現型の解析という一連の研究態勢が整ったため、初年度の研究の進捗状況としては順調であると考えられる。ただ、今年度は、同様の実験をHDC-floxマウスを用いて行うことおよび、視交叉上核、縫線核といった他の脳部位についてのヒスタミン神経系の役割についても検討する予定であったため、一部研究計画から遅れが生じている。そのため、最終的な研究目的の遂行のためには一層の努力が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、今年度の研究により関連が示唆された、視床下部ヒスタミン神経系と自発運動量および、扁桃体ヒスタミン神経系と攻撃行動の関連について明確にするため、さらにサンプル数を増やし詳細に検討を行う。これに加え、他の脳部位におけるヒスタミン神経系について明らかにするため、AAVを分界条床核、縫線核に打ち込み、それらの脳部位におけるヒスタミン量と、不安様行動への影響を検討する。同様に、海馬、前頭皮質にもAAVを打ち込み、同脳部位におけるヒスタミン量と記憶学習機能について検討を行う予定である。これにより、さらに詳細な脳部位別のヒスタミン神経系の役割が明らかになると考えられる。これらの研究と平行し、脳内ヒスタミン神経系の活動と実際の病態について、アルツハイマー病モデルマウス、うつ病モデルマウスを用いて検討する。アルツハイマー病モデルマウスとしてはAPPノックインマウスを用いる。APPノックインマウスと、HDC-flox、HNMT-floxとの交配はすでに始めており、実験に十分な匹数が揃いつつある。揃った順から海馬や前頭皮質にAAVを打ち込み、これに伴う認知機能を行動実験にて観察し、シナプスの脱落、神経炎症について組織学的に解析し検討する。次に、HDC-floxマウス、HNMT-floxマウスに慢性ストレスを負荷し、うつ病モデルマウスを作製する。分界条床核、縫線核などにAAV-Creを注入し、慢性ストレスにより惹起されたうつ様関連行動がどのように変化するかを行動実験により検討する。これらの研究により、脳局所におけるヒスタミン神経系の活動変化が、実際の病態モデルマウスの症状にどのように影響するのかを明確に出来ると考えている。
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