研究実績の概要 |
シナプス伝達のバランスの破綻はてんかん、統合失調症等の脳神経疾患を誘引すると考えられており、脳の興奮性を決定する分子機構の解明は重要な課題といえる。これまでに我々は神経分泌蛋白質LGI1とその受容体ADAM22の複合体が脳の興奮性を制御することを報告してきた。具体的には、家族性てんかん患者で見られるLGI1変異の網羅的解析により、LGI1の変異による分泌不全や、ADAM22との結合不全がてんかん発症の分子病態であることを報告してきた(Yokoi et al, Nat Med, 2015)。最近、東京大学 深井周也博士のグループにより、LGI1/ADAM22複合体がLGI1同士の結合(2量体形成)を介して4量体構造をとっていることが見出された。我々は新たなLGI1変異体の分子病態として、このLGI1とLGI1の間の結合がR474Q変異によって破綻し、この破綻がてんかんの原因になることを見出した。これらの成果は深井グループとの共著として平成30年度に論文として発表した(Yamagata, Miyazaki, Yokoi et al, Nat Commun 2018)。以上の研究結果から、シナプスにおけるLGI1/ADAM22複合体量の重要性が明らかになってきた。さらに、平成30年度はADAM22の翻訳後修飾によるADAM22の生合成機構の制御について研究を進めた。具体的には、マウス脳内でADAM22がある翻訳後修飾を受けていることを見出し、その翻訳後修飾を欠損させたノックインマウス脳内でADAM22の分解が著しく促進していることを見出した。さらに、マウス脳内のADAM22の減少とてんかん発症の関連性についても新たな知見を得ることができた。この翻訳後修飾の生理機能を明らかにしていくことで、脳の興奮性の分子制御機構の解明に繋がっていくと期待される。
|