異種間交配により誕生した個体は生殖能力が欠如することが多い。この生殖能力の欠如は、種を保全するための強力なバリアーである。このバリアーによる異種間の生殖隔離は、それぞれの種が独立して維持・進化するために重要である。野生に由来する近交系マウスと実験動物として100年近く使用されている近交系マウスでは、生殖隔離現象が生じる。本研究では、この二つの系統を利用して、生殖隔離現象の分子メカニズムの解明を試みる。 前年度に見出した2つの原因候補遺伝座について更なる解析を行った。ひとつめの遺伝子座には複数のmiRNA遺伝子が含まれていたため、これらmiRNA遺伝子を個別に欠損させたマウスを全4系統作出した。これらの各単一miRNA欠損マウスの精巣よりRNAを抽出し、RT-qPCRを実施した結果、全ての系統で標的としたそれぞれの遺伝子の発現がないことが確認された。そこで、これらの単一miRNA欠損オスマウスを野生型のメスマウスと交配することで稔性を確認した。その結果、全ての系統で稔性が認められた。以上の結果からこの遺伝子座に存在するmiRNAは、少なくとも単一では、精子形成に必須でないと結論した。 次にもう一つの原因候補遺伝子座には二つの関連遺伝子が存在していた。そこで、この二つを同時に欠損させたダブル遺伝子欠損マウス(dKO)とそれぞれを単一で欠損させた単一欠損マウス(sKO1およびsKO2)をマウス受精卵ゲノム編集で作製した。その結果、sKO1とsKO2は低作出効率ながら誕生し、誕生した個体は稔性を示した。その一方dKOは1匹のオスファウンダーが得られたが、稔性を示さなかった。以上の結果から、この二つの遺伝子は機能を相互補完しながら発生と生殖細胞の成熟に機能していると考えられる。
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