研究課題/領域番号 |
17K14974
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 基嗣 東京大学, 医学部附属病院, 登録研究員 (40755740)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 化膿レンサ球菌 / 好中球細胞外トラップ / DNase / Streptococcus pyogenes / Group A streptococcus / NETs |
研究実績の概要 |
化膿レンサ球菌菌株を経鼻感染させた致死的マウスモデルを構築した。本モデルでは、感染24時間後から体重減少がみられ、感染72時間後に菌血症となり、感染6日後までに全数が死亡した。感染マウスでは、経時的に鼻粘膜破壊が生じ、著しい鼻粘膜上皮細胞のアポトーシスが観察された。感染局所では、好中球とマクロファージの浸潤がみられたが、菌塊の中心部には好中球のみが観察された。薬剤を用いて好中球除去マウス及びマクロファージ除去マウスを作製し、化膿レンサ球菌を感染させたところ、好中球除去マウスでは感染局所菌数が減少し、マクロファージ除去マウスでは菌数の増加が見られた。このことから、好中球が化膿レンサ球菌の感染拡大に寄与したと考えられた。化膿レンサ球菌は、分泌型DNaseにより好中球細胞外トラップを分解するため、同分解産物によるマクロファージ細胞死が起きている可能性を検討した。ヒト単球系細胞を用いたin vitroの実験において、化膿レンサ球菌培養液上清には強い細胞毒性が観察された。好中球を刺激して、好中球細胞外トラップを発生させた後、化膿レンサ球菌培養上清を添加して得られた好中球細胞外トラップ分解産物は、ヒト単球系細胞に対して化膿レンサ球菌培養上清に相加的な細胞毒性を示した。当該化膿レンサ球菌の有する分泌型DNase構成遺伝子のノックアウト菌株をマウスへ感染させたところ、著しい生存期間の延長及び感染局所菌数の減少が見られた。これらは、化膿レンサ球菌に関する研究報告及び化膿レンサ球菌によって生じた好中球細胞外トラップ分解産物が生体へ不利に作用するという本研究の仮説に矛盾しない結果と考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
遺伝子欠損菌株と野生型菌株で感染マウスの生存率に有意差がみられたことから、主に免疫組織化学染色に基づく病理学的検討を実施した。マウス頭部の病理標本を作製して、免疫組織染色を含めた様々な染色方法を試して比較検討したが、前述の研究成果を超える新たな知見は得られなかった。また、肝臓、腎臓、脾臓の病理標本を用いて化膿レンサ球菌によって生じる好中球細胞外トラップ分解産物が遠隔臓器に影響していないか検討したが、感染期間の短い本モデルでは野生型菌株感染マウスの遠隔臓器に組織学的な異常を見出すことは困難であった。
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今後の研究の推進方策 |
進捗状況及び研究期間等に基づき実験系を見直した結果、現段階での研究成果をまとめて公表する方針とした。今回の実験系において重要と考えられるDNase構成遺伝子であるSdaD2、endA、spdの各欠損菌株うち、DNA配列から分泌型と考えられ、かつ野生型菌株と比較して生存期間を最も延長したspd欠損菌株に注目して研究を継続する。spd recombinant proteinを精製し、NET-DNAと混合して好中球細胞外トラップ分解産物を得て、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びMALDI/TOF-MS質量分析により解析する。新たに出現した好中球細胞外トラップ分解産物画分をマススペクトルと照合して物質を特定し、さらに細胞毒性の有無について培養細胞を用いて検討する。可能であれば、spd complement菌株を作製し、野生型菌株、spd欠損菌株による動物実験結果の再現性を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成31年度は、先行研究及び本研究をまとめて発表するにあたって必要な経費を中心に申請する。論文投稿後、ジャーナルの編集者及び査読者から追加実験等の要求を受けた場合の実験費用と、上述のspd recombinant protein精製、好中球細胞外トラップ分解産物の生成、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)及びMALDI/TOF-MS質量分析等にかかる費用を申請する。
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