がんの根治を妨げる原因として、腫瘍中に低い割合で存在するがん幹細胞の存在が挙げられる。がん幹細胞は自己複製可能で治療抵抗性があり、循環血液中もしくはニッチ領域においても休止状態で存在することが可能であるため、治療後の再発や転移の原因になると考えられている。申請者はI型膜タンパク質Glycoprotein nmb(GPNMB)が、上皮間葉転換(EMT)の誘導および乳がんの腫瘍形成に関与することを明らかにした。EMTは幹細胞性獲得への寄与が報告されており、GPNMBが幹細胞性獲得に関係しているのかについて検討することとした。GPNMBと幹細胞との関連が明らかになれば、GPNMBを標的とした治療が、がん幹細胞を標的としたがん根治を可能にする治療法に発展する可能性を示している。本研究課題は、がん幹細胞におけるGPNMBの役割を明らかにし、新規がん治療薬および診断薬の開発に取り組むものである。 平成29年度には、GPNMBの発現が高い細胞をfluorescence activated cell sorting(FACS)によって分取する方法を確立し、幹細胞マーカー、増殖マーカーの発現を調べた。GPNMBhigh細胞群ではGPNMBlow細胞群に比べ、幹細胞マーカーの発現が有意に高く、増殖マーカーの発現が有意に低いことが明らかになった。またGPNMBhigh細胞群はGPNMBlow細胞群に比べ、高い造腫瘍性を示した。平成30年度中に、これらの成果をまとめCancer Research誌に発表した。今年度は新たにGPNMBによるEMTや腫瘍形成誘導に関与する翻訳後修飾を発見し、メカニズムの解析を進めた。修飾されたGPNMBを特異的に認識する抗体の作製を行った。加えて、GPNMBの腫瘍形成に関与する領域に対する環状ペプチドのスクリーニングも行った。
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