研究課題/領域番号 |
17K14982
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
中澤 世識 群馬大学, 医学部附属病院, 医員 (60791978)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肺癌 / 直鎖状ユビキチン / LUBAC |
研究実績の概要 |
本研究で我々は、「肺癌における直鎖状ユビキチン関連シグナルの機能解析と臨床応用」として、肺癌の新規治療標的として直鎖状ユビキチン(M1-Ub)とその合成酵素であるLUBACの可能性に注目した。研究計画の概略として、まず肺癌患者のデータベースと肺癌細胞株を対象にM1-Ub関連因子の網羅的スクリーニングを行い、LUBACとM1-Ubに関連の高い組織型や遺伝子変異の同定を目指す。さらに、スクリーニングで得られた知見を検証する為に、肺癌切除検体を対象に組織染色と遺伝子解析を行い、LUBAC発現と肺癌の臨床病理学的因子との関連を解析する。また、LUBACとM1-Ubの作用する機序を解明する為に、肺癌細胞株に対するLUBAC阻害剤の影響や、LUBACノックダウン/ノックアウトの影響を詳細に解析し、治療標的としての可能性を追求する。 本年度の研究成果として、肺癌患者のデータベース解析からLUBAC発現が特定の組織型で有意な予後関連因子となることが明らかになった。また、肺癌細胞株のスクリーニングからは、LUBACが高発現する細胞株を同定し、既知のNFκB活性化に加えて複数の主要シグナル経路に影響する事を確認した。さらに、LUBACの選択的阻害剤は肺癌細胞株において増殖能/浸潤能を抑制し、細胞死を誘導する事を明らかにした。加えて、肺癌検体を対象に他疾患で報告されているLUBACの遺伝子多型を検索した結果、それと類似する遺伝子多型を2例の肺癌症例で同定した。 今後、切除検体を対象にLUBAC発現を免疫染色で解析し、LUBAC発現と臨床病理学的因子との関連を検証する。また、肺癌細胞株を対象にLUBACをノックダウン/ノックアウトする影響や阻害剤の影響のより詳細な機能解析を進め、臨床応用への橋渡しを目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究を通して、LUBACが高発現する組織型を同定し、予後関連因子であることが明らかとなった。肺癌細胞株では、LUBACが主要なシグナル経路に関与している事を同定した。さらにLUBACの選択的阻害剤は肺癌細胞株において増殖能・浸潤能の抑制し、細胞死を促進する事も確認した。また、報告されているLUBACの遺伝子多型と類似した変異を、2例の肺癌症例で同定した。以上から、平成30年度には、前年度の研究成果を元に、より詳細な研究進展が期待でき、全体を通して当初の研究計画に従って進行している為、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度には、平成29年度の研究成果を更に発展させ、次の解析を行う。 Ⅰ.肺癌切除検体を用いたM1-Ub関連因子の組織染色と遺伝子解析による検証: ①平成29年度のスクリーニングから得られた知見を元に、肺癌切除標本を対象にLUBAC構成因子であるHOIP、HOIL-1L、SHARPINの発現を免疫組織染色で確認する。 ②肺癌切除検体におけるLUBAC発現と臨床病理学的因子との関連を解析する。特にdriver mutationなどの遺伝子変異や免疫チャックポイント分子との関連に着目する。 Ⅱ.肺癌細胞株におけるLUBAC阻害剤やノックダウン・ノックアウトによる影響の解析: ①肺癌細胞株などを対象にCas9/CRISPR法によりHOIPノックアウト細胞を作製し、LUBACの生理機能や作用機序をより詳細に明らかにする。 ②LUBAC選択的阻害剤が特定の組織型やシグナル伝達経路に与える影響や、増殖能・浸潤能などの細胞機能に与える影響を検証し、治療標的としてM1-UbやLUBACの有用性を検証する。 ③Cisplatinなど抗がん剤や分子標的薬との併用効果も解析する。 Ⅲ.LUBACの遺伝子多型を有する肺癌の解析: ①LUBAC変異を有する肺癌切除検体を対象に各種免疫組織染色を行い、活性化しているシグナル経路を検証する。 ②変異体を作成し、in vitroでNFκBの活性化やLUBAC複合体形成への影響を検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該助成金が生じた状況としては、肺癌切除検体を対象とした免疫組織染色を平成29年度に開始する予定であったが、平成30年度に繰り越しとなった為、次年度使用額が生じた。翌年度分として請求した助成金と合わせた使用計画に関しては、研究計画全体のスケジュールと内容が概ね順調に進展している為、予定通りの使用計画とした。
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