研究課題
正常細胞における早期細胞老化機構の破綻は様々な癌に深く関与し、その破綻によって誘導される癌化の分子機構の解明は、我が国における重要な研究課題となっている。本研究では、早期細胞老化機構における新規重要因子であるJAG1遺伝子に着目し解析を行うことで、複雑に制御される癌化メカニズムの解明を目的としている。H30年度は、研究計画に基づき、(3)臨床標本データにおける新規重要因子JAG1の破綻による発癌分子機構の解明、 (4) Notchシグナル活性化・非活性化細胞の共培養による早期細胞老化伝達メカニズムの解明、について解析を行った。(3)では、The Cancer Genome Atlas(TCGA)の膵臓癌のデータを用いて解析を行った。KRAS(+)膵臓癌とKRAS(-)膵臓癌のRNA-Seqのデータを解析した結果、KRAS(+)膵臓癌ではJAG1の発現上昇を有意に認めた。(4)の解析では、JAG1を強制発現させた老化細胞と赤色蛍光タンパク質であるmCherryを発現させた正常細胞を共培養し、老化細胞を緑色に蛍光標識できるSPiDER-βGalを用いて細胞の老化状態を評価した。非常に興味深い事に、JAG1活性化老化細胞(緑色)と正常細胞(赤色)及び老化した正常細胞(黄色)が観察され、JAG1活性化細胞の周囲の正常細胞は離れた正常細胞と比べて有意に老化していた。またJAG1活性化老化細胞の培地上清及びリコンビナントJAG1タンパクを用いてその分子機構の検証を行った。その結果、培地上清による増殖阻害効果は認められなかったが、リコンビナントJAG1タンパクによる細胞の増殖阻害効果が認められた。以上の結果からJAG1活性化細胞が直接的な細胞間接触によるNotchシグナルの活性化を介して周辺の正常細胞を老化させている事が示唆された。
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