最近の研究から、細胞核内に局在するタンパク質Parafibrominがヒトの発がんに深く関わる4つのシグナル伝達経路(Wntシグナル、Hedgehogシグナル、Notchシグナル、Hippoシグナル)の遺伝子発現応答を協調的に制御することが明らかとなった。さらに、このParafibrominの機能にはParafibromin分子内の複数のチロシン残基の脱リン酸化が必要であることが示されている。そこで本研究では、Parafiborminのチロシンリン酸化-脱リン酸化が細胞内における転写応答ネットワークの制御に及ぼす影響を明らかにし、細胞レベルおよび個体レベルの生命現象にParafibrominが果たす役割の解明を試みた。 平成30年度には以下の研究成果を得た。
1.哺乳動物培養細胞を用いた解析から、細胞内でのParafibrominチロシン脱リン酸化の亢進は細胞分裂期(M期)の異常を伴う細胞増殖の抑制を引き起こすことを明らかにした。このことから、Parafibrominチロシンリン酸化-脱リン酸化の制御異常は染色体不安定性を誘導することでがんの悪性化に関与する可能性が示唆された。
2.Parafibrominチロシンリン酸化-脱リン酸化が個体レベルで担う生理的・病態生理的役割を明らかにするため、CRISPR/Casシステムによるゲノム編集技術を用いて新規遺伝子改変マウスの作製を試みた。その結果、Parafibrominのチロシンリン酸化を担うチロシンキナーゼ群を多重欠損させた新規遺伝子改変マウスの樹立に成功した。今後の研究の展開として、この新規遺伝子改変マウスを用いた各種の発がん関連解析を行うことでチロシンリン酸化異常を原因とするヒトのがんに対する新規の治療法・予防法の開発に役立てたい。
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