研究実績の概要 |
本研究では,薄膜に設けた貫通穴構造に,細胞の凝集体をはめ込むことで,薄膜の上下で異なる培養環境(液性条件)を凝集体に対して提示しうる区画化培養系を提案し,培養系の実装にあっては,(1)透明シリコーンゴム(PDMS)製薄膜を材料に用いる系と(2)市販のカルチャーインサートのポリエチレンテレフタラート(PET)製薄膜を利用する系のふたつを検討した.(1)では,ソフトリソグラフィ技術により製作したPDMS製薄膜上の貫通穴構造(直径100~400 μm)にiPS/ES細胞の凝集体(胚様体)をはめ込み,薄膜の上下に異なる培養環境(膜上:分化誘導因子なし,膜下:分化誘導因子あり)を提示し,胚様体(20000 cells)の4日間の培養が可能であること,分化誘導因子を作用させた胚様体の膜下の一部のみ選択的に分化誘導可能であることを確認した(Kaneda et al., Biomicrofluidics 2017).(2)では,0.4 μmの細孔を持つカルチャーインサートのPET製薄膜に,レーザー加工によって貫通穴構造(直径90~230 μm)を製作し,その後にパリレンを薄膜にコーティングすることで細孔を塞ぎ,区画化培養系を実現することに成功した.系の評価には,がん細胞としてヒト肝がん由来細胞株(HepG2細胞)やヒト前立腺がん由来細胞株(DU-145細胞)を,抗がん剤としてチラパザミンやパクリタキセルを用い,貫通穴構造にはめ込んだがん細胞の凝集体(スフェロイド)に対して,開発した系を用いて,薄膜の上下に異なる培養環境(膜上:抗がん剤なし,膜下:抗がん剤あり)を提示し,薄膜で規定されたスフェロイドの一部のみ選択的に抗がん剤を作用させることが可能であることを確認した.
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