研究課題/領域番号 |
17K14986
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
西川 裕子 東京大学, 大学院医学系研究科, 特任研究員 (20583131)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | PAR1b / ピロリ菌 / がんタンパク質 / CagA / 胃がん |
研究実績の概要 |
本研究は胃がんを引き起こすピロリ菌がんタンパク質CagAの標的タンパク質であるPAR1bの新たな相互作用分子を同定し、PAR1bの生理的機能を解明することを目的としている。FY2017の主要な研究成果はPAR1bの新規相互作用分子としてRNAを同定したことである。
PAR1bの多量体化はCagAの病原性を増大することが知られていたが、その実態は不明であった。これまでの当研究室の研究からPAR1bを培養細胞内で一過性発現させると多量体化することが知られていたが、組換え型全長PAR1bを大腸菌で発現させ精製し、SEC-MALS解析したところモノマーであった。これは、PAR1bが翻訳後修飾、あるいは未知の相互作用因子Xを介してが多量体化することを示唆していた。一方で、組換え型全長PAR1bを精製する際に大量のRNA夾雑物が混入することから、ヒト培養細胞内でもPAR1bがRNAと結合する可能性があると考え、細胞抽出液をRNase処理したところ、PAR1bの多量体は喪失した。このことから、PAR1bがRNAを介して多量体化していることを新たに発見した。また、PAR1bの多量体化責任領域を特定した。
PAR1bがRNAと結合しているというのは予想外の新たな展開であり、当初は非特異的な結合の可能性を考えたが、PAR1b発見の歴史を遡っていくと、C. elegansやDrosophilaの発生において、ホモログであるPar1がmRNAの局在制御に関与しているという報告があり、非常に興味深い。分化した哺乳類細胞においてRNAがPAR1b多量体化の足場として機能しているだけでなく、RNAの局在等に関与している可能性があるのではないかと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画ではPAR1bの相互作用分子としてタンパク質を同定する予定だったが、想定外にRNAを同定したことは大きな発見である。PAR1bは多様な生理的機能を示すが、その制御機構はほとんどわかっていない。今後PAR1bと結合するRNA配列を決定すれば、PAR1bの生理的機能を理解する上で大きな展開が期待できると考えている。また、ピロリ菌CagAによる胃発がん機構を理解する上でも重要な意味をもつと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はPAR1bと相互作用するRNA分子の同定を中心に研究を進めていきたい。 まずは細胞抽出液からPAR1b-RNA複合体を免疫沈降法により精製し、次世代シーケンサーにかけてそのRNA配列を決定したいと考えており、現在条件を検討中である。また、細胞レベルでPAR1bをノックダウンしたときにそのRNA分子の局在やコードするタンパク質の発現が変化するかを検討したい。くわえて、ピロリ菌CagAがPAR1bの生理的機能にどのような影響を及ぼすかを検討したい。さらに、そのRNA配列と組換え型PAR1bを用いて、ピロリ菌CagAの病原性を増大させる上で重要なPAR1bの多量体化を再現する予定である。
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