本研究では胃発がんの原因であるピロリ菌がんタンパク質CagAの標的宿主タンパク質であるPAR1bキナーゼの新たな相互作用因子を同定し、その因子を通してPAR1bの未知なる生理機能を明らかにし、胃発がんのメカニズムを解明することを目的としている。PAR1bの多量体化はCagAの病原性を増強する役割を担うが、その本質は不明なままであった。FY2017では培養細胞内でPAR1bがRNAを介して多量体化していることを発見したが、FY2018ではその生化学的特性を中心に研究を実施した。
まず、大腸菌から精製した組み換えPAR1bタンパク質を用いて、RNAを介したPAR1b多量体の試験管内再構成を試みることにした。再構成を実施するためにはヌクレアーゼを除去した組み換えPAR1bタンパク質が必須である。今までの精製法では、大腸菌由来のRNAがPAR1bと強く結合し、精製を妨げてしまうため、RNAをヌクレアーゼで分解除去していた。しかしながら、この方法では残存ヌクレアーゼ活性でRNAが分解されてしまうため、ヌクレアーゼを利用しない全長PAR1b精製法を新たに確立し、大量精製に成功した。精製したヌクレアーゼフリーなGST-PAR1bおよびPAR1bを用いて、GSTプルダウン法で多量体の再構成を試みたところ、RNA存在下でPAR1bは多量体化することが判明した。また、FY2017で特定した多量体化責任領域を欠失させた変異PAR1bの発現ベクターを作成し、その組み換え変異PAR1bタンパク質を精製した。この変異PAR1bタンパク質はRNA存在下でも多量体化できなかったことから、この領域がRNAと特異的に相互作用をすることにより、PAR1bが多量体化することが示唆された。
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