研究課題/領域番号 |
17K14987
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
野中 綾 東京大学, 先端科学技術研究センター, 特任研究員 (50786621)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | lncRNA / beta-catenin / Wnt / cancer / epigenetic |
研究実績の概要 |
本研究は多くのがんで恒常的に亢進しているWntシグナルに着目し、b-カテニンの標的lncRNAである12Rの機能解析を行い、がん発生及び細胞メカニズムへの関与を明らかにすることである。12Rの発現を抑制すると細胞増殖が低下し、それ以上にマウスに異種移植すると腫瘍形成が観察されなくなった。12R発現抑制による遺伝子発現解析を行うと、発達やWntシグナルに関する遺伝子が濃縮していた。そのため、12Rの発現はb-カテニンの発現やゲノムへの結合を制御すると考えられたが、ChIP解析を行った結果、12Rの発現有無による差異は認められなかった。そこで、12Rの発現変化により引き起こされるクロマチン活性化マークであるH3K27Acの修飾変化領域をChIP実験により選び出し、特異的に濃縮する転写因子を探索した。その結果、12Rの発現変化によりH3K27Acが減少する領域にはb-カテニンの結合配列以外に特定の転写因子配列の濃縮が確認できた。実際にこの配列に結合する転写因子のChIP-seq解析を行うと、12R抑制によりH3K27Acの修飾が低下する領域と一致することが明らかになった。 つまり、b-カテニンにより発現が制御される12Rはb-カテニンのとこの転写因子を介しH3K27Acの修飾を活性化させ、標的遺伝子の転写を促進することが明らかとなった。この転写因子ファミリーの一つはb-カテニンと12Rのターゲット分子でもあり、12Rの抑制により発現が減少した。つまりb-カテニン、12R、同定転写因子のポジティブフィードバックが形成されていることが考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目標である12Rがどのような機構により細胞増殖、および腫瘍形成能を示すのかをH3K27Ac変化領域を探索することで、特定の転写因子が鍵となる分子であることを同定した。この転写因子はStem cellに重要な自己複製や恒常性を制御している分子であり、12Rの抑制効果が2次元培養による細胞増殖抑制よりも、マウス異種移植による腫瘍抑制効果が大きい事と一致している。よって、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
lncRNA12RはbHLH転写因子ファミリーとbeta-cateninを介して、近傍領域のH3K27Ac修飾を調整することから、これらの分子との相互作用が考えられる。 また、12R抑制効果による増殖抑制がbHLH転写因子が関与しているのか同定するために、これらの分子の発現を抑制しK27Acの修飾変化や増殖を検出する。12Rのノックダウン細胞は2クローンしかないため、さらに増やしクローン間で共通するヒストン修飾の変化を同定する。これらの結果を踏まえ、早期に論文化する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度はすでに所有していた試薬で研究を行うことが可能になったことや、一部試薬を自作したため当初予定した費用よりも少額となった。次年度の使用計画に大きな変更がないが、研究を加速するためにキット購入や論文化の費用に充てる。
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