成人T細胞白血病(ATL)は、CD4陽性T細胞の腫瘍性増殖を特徴とする疾患であり、ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)の感染により引き起こされる。約60年という長い年月をかけて白血病細胞に数多くの遺伝子変異が蓄積しATLを発症するが、その機序は未だ不明である。本研究では、HTLV-1がコードするトランスフォーミングタンパクTax1がDNA複製および修復機構に与える影響を解析した。休止期に誘導したT細胞株Kit 225にTax1を発現させ、DNA複製および修復関連遺伝子の発現についてRNAシークエンスを用いて解析した。その結果、Tax1はDNA複製関連遺伝子群の発現を誘導した。また、DNA二重鎖切断修復機構に関わる遺伝子群について解析したところ、Tax1は相同組換え(HR)修復関連遺伝子群の発現を誘導したのに対し、非相同末端結合(NHEJ)修復関連遺伝子群の発現に影響を与えなかった。HR修復関連遺伝子の発現上昇は、Tax1の発現によりDNA二重鎖切断が起こっている可能性を示唆している。本研究より、Tax1はDNA複製時にDNA二重鎖切断を引き起こし、遺伝子変異を誘導する可能性が示唆された。
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