研究課題/領域番号 |
17K14990
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
越前 佳奈恵 金沢大学, がん進展制御研究所, 特任助教 (20743834)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 胃がん / 胃炎 / クローン拡大 |
研究実績の概要 |
本研究では、H.pyroli感染による慢性炎症から胃がんへと遷移する際に、組織学的変遷のどの段階でクローン拡大が起こるのか、また、がんへと遷移させるドライバーとなる事象は何かを明らかにすることを目的として実験を行っている。具体的には、H.pyroli感染による萎縮性胃炎を背景に持つ高分化型胃がん検体内の胃炎組織、および胃がん組織から、病理学的所見と対応させて複数箇所の粘膜上皮サンプルを採取してDNAシークエンス解析を行い、特定の遺伝子変異を持つクローン拡大の有無、遺伝子変異パターン、コピー数異常等を比較する。以上の解析により、ゲノム変異を伴う胃がんの前がん病変の本態解明と、発がんメカニズムの解明を目指す。 (1)胃炎組織におけるクローン拡大の評価 H.pyroli陽性で、萎縮性胃炎を背景に持つ高分化型胃がんを対象に、微小領域(直径3mm程度)から上皮細胞組織を分離して回収し、DNAを抽出して、エキソームシーケンスを行った。現在までに、2検体より、胃炎粘膜組織の腺管を各4箇所分離してシーケンスを行った。この結果、いずれの検体においても、各遺伝子の20%以上のリードに変異がある遺伝子変異が観察された。一方、観察された遺伝子変異は隣接する領域のサンプルと共通ではなかった。このことから、胃炎組織において既に3mm以下程度の領域でクローン拡大が生じていることが明らかとなった。 (2)胃がんにおける変異の確認 前述の2検体のうち、1検体について、胃がん組織での遺伝子変異解析を行った。具体的には、レーザーマイクロダイセクション法(LMD)を用いて、胃がん上皮組織のみを単離し、エキソームシーケンスを行った。この結果、胃炎部に見られた遺伝子変異と共通の変異は観察されなかった。以上のことから、この検体の胃がんは、胃炎組織で観察されたクローンとは異なるクローンから独立に生じたことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
胃がんおよび、それに近接した胃炎組織からのDNA抽出・解析について、ほぼ予定通り研究を進めている。現在までに、胃炎検体2例を用いてエキソームシーケンス解析を行い、このうち1例については腫瘍部の解析も終了している。胃炎組織における遺伝子変異解析には、直径3mm程度の領域から単離した上皮組織よりDNAを抽出していたが、IHC解析によって、この微小領域の中にも、腸上皮化生(IM)とそうでない部分が一定数の腺管でクラスターをなしてモザイク状に存在する場合があることが分かった。胃炎部分の微小組織由来サンプルを用いたエキソームシーケンス解析の結果、変異アリル頻度(VAF)の高い遺伝子変異が観察され、胃炎組織において既にクローン拡大が生じていることが明らかとなったが、IHCで確認されたIMの腺管の広がりが、遺伝子変異を持ったクローンの拡大と対応しているかどうかを調べるため、現在、LMDを用いて、IMの有無ごとに連続した腺管を切り出してゲノムを増幅し、シーケンスを行う方法を検討している。
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今後の研究の推進方策 |
(1)DNAシーケンス解析 今年度は、胃がんに隣接した胃炎組織について、引き続き新たに検体を追加してシーケンスを行い、クローン拡大の状況についてさらに解析を進める。また、胃炎組織においてIMとそうではない腺管が混ざっている検体について、LMDを用いて、各種類の腺管の集団ごとにDNAサンプルを回収し、それぞれの腺管に特異的な変異の有無を解析する。またIMの有無によって、クローン拡大の頻度・程度に変化があるかを検証する。胃がん組織で確認された変異と比較することにより、クローン拡大と発がんが独立に起きているのか否かを検証する。
(2)クローン拡大のドライバー因子候補の評価 前述の解析の中で確認された遺伝子変異のうち、VAFの高いものについて、in vitroの実験を行い、クローン拡大のドライバー因子となる可能性について検証する。具体的にはマウス胃粘膜組織オルガノイド培養細胞、もしくは初代培養細胞に変異遺伝子発現ベクターを導入後、BrdU取り込み実験や、各胃粘膜細胞への分化マーカーに対する免疫染色、マウス胃への同所移植を行い、分化・増殖に及ぼす影響を解析する。また、これらの中で、強制発現によって、クローン拡大を促進しうる具体的な表現型が得られた遺伝子変異についてRosa26領域にタモキシフェン依存的な発現カセットを導入してノックインマウスを作製し、遺伝学的解析を行う。具体的には、Cldn18-CreERT2マウスと掛け合わせることによって胃粘膜上皮特異的にモザイク状に変異遺伝子を強制発現し、in vivoにおけるクローン拡大への影響を評価する。またこれらのマウスを胃炎モデルマウス(K19-C2mE)マウスとの交配実験によって、炎症に依存してクローン拡大が生じるか、または促進されるかを検証する。
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