胃がんの前がん病変である胃炎組織において、クローン拡大がどの程度進んでいるかを確認するため、胃炎組織の微小領域からサンプルを行い、DNAシーケンスを行った。具体的には、ピロリ菌感染後に腺管型の胃がんを発症した患者の手術検体から、胃がんに隣接した胃炎組織を採取し、複数か所から直径3mmの領域をくりぬいて、上皮組織を分離した後DNAを抽出して、解析を行った。 本年度は前年度に加えて、15検体のサンプル採集を行い、新たに2症例についてシーケンス解析を行った。 前年度の解析に加え、本年度の解析の結果においても、胃炎組織での複数の変異の蓄積が見られた。この中で、各領域において、最大のVariant Allele Frequencyを持つ変異は、その値がそれぞれ0.2~0.6程度有った。この結果は、直径3mmの領域に、100個前後の腺管が含まれることを考えると、変異を持つ上皮細胞が数十個~数百個の腺管にまたがって存在している可能性を示す。以上のことから、胃がんの背景となる胃炎組織においては、すでに、いたるところで微小なクローン拡大が進んでいることが明らかとなった。また、これらの胃炎組織にみられた変異は、同一症例の胃がん組織で見られた変異と異なることから、胃がんは胃炎組織とは独立したクローンから発生したことが分かった。さらに本年度は、胃がん検体から、胃炎組織に加え、胃炎ではない組織も採集して解析を行った。この結果、遺伝子変異数は胃炎組織と比べてかなり少ないが、小さなクローン拡大は起こっていることが分かった。 これらのシーケンス解析から、ピロリ菌感染した検体の胃組織においては、微小な領域でのクローン拡大が進行していること、胃炎によって遺伝子変異が著しく蓄積するようになること、そして、発がんする際には強力な変異を獲得したクローンが爆発的に拡大することが明らかとなった。
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