本年度は、JSAPによる細胞分裂制御因子の細胞内局在性への影響について検討するため、それらを蛍光標識したタンパク質発現レンチウイルスベクターの作製を行った。また、JSAPノックアウトによる染色体の分配異常が普遍的な現象であるのかについて検討するため、CRISPR/Cas9システムによるJSAPノックアウト細胞の作製を行った。 これまでの研究成果より、細胞内輸送制御因子であるJSAPの発現亢進またはノックアウトにより染色体の分配異常が認められたことから、細胞分裂制御因子の細胞内局在性を検討するため、PLK1やShugoshinなどのGFP融合タンパク質発現レンチウイルスベクターを作製し、細胞へ遺伝子導入を行った。その結果、GFPの蛍光シグナルが、細胞分裂期では中心体や染色体へ局在し、内在性のタンパク質と同様の細胞内局在性が認められた。さらに、JSAPをノックアウトしたMEF細胞では、染色体の動原体において、PLK1によるGFPシグナルの過剰な集積が認められた。 また、JSAPをノックアウトしたMEFでは、染色体の分配異常が認められたことから、MEF以外の細胞でも同様の表現型を示すかについて検討を行うため、CRISPR/Cas9システムを用いたゲノム編集によりJSAPノックアウト細胞の作製を行った。その結果、HCT116など、ヒト由来の細胞において、JSAPノックアウト細胞を獲得することができた。 以上の結果から、JSAPは細胞分裂期における細胞分裂制御因子の細胞内局在に大きく影響を与えることが示唆された。また、本年度に作製したレンチウイルス発現ベクター及びJSAPノックアウト細胞を用いることで、次年度以降、JSAPによる細胞分裂制御メカニズムの解明、及び、未だに不明な点が多い、がん細胞の染色体不安定性獲得メカニズムの解明に向けた研究を大きく推進するものと考えられる。
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