本年度は、昨年度に得られた研究成果をさらに発展させるとともに、JSAPによる染色体分配制御、および、その破綻がもたらす細胞への影響について検討を行った。 昨年度までの研究成果により、細胞内輸送制御因子であるJSAPの発現亢進またはノックアウトされた細胞では、染色体の分配異常が引き起こされることを明らかにした。また、JSAPノックアウト細胞ではPLK1などの細胞分裂制御因子の細胞内局在性に異常が認められることから、JSAPが細胞分裂制御因子の細胞内局在性をコントロールすることで、正常な染色体分配が行われることを明らかにした。よって、本年度は、JSAPノックアウト細胞における、細胞分裂後の染色体の本数について検討を行うため、ギムザ染色により解析を行った。その結果、正常のMEF(マウス胎児線維芽細胞)では40本であるはずの染色体数が、JSAPがノックアウトされたMEFでは、40本より少ない、または多い細胞が多数観察され、がん細胞の特徴の1つでもある異数性を示すことが明らかとなった。 また、昨年度にCRISPR/Cas9システムを用いて作製した、ヒト由来のJSAPノックアウト細胞を用いて、MEFと同様な現象が認められるかについて検討を行ったところ、MEFと同様、細胞分裂時における染色体の分配異常が認められた。 以上の結果から、JSAPは細胞分裂期における染色体の分配を制御し、その機能の破綻は、がん細胞の特徴の1つである異数性を持つ細胞を生み出すことを明らかにした。また、この現象はマウス由来の細胞だけでなく、ヒト由来の細胞でも認められることから、普遍的なメカニズムであることを明らかにした。
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