がん細胞は解糖系エネルギー代謝を好んで利用する。また、解糖系の活性化は、iPS細胞などの多能性幹細胞でも顕著で、高い自己複製能を支える重要な基盤となっている。これまで、がん化およびiPS細胞誘導において、低酸素誘導因子(HIF)と呼ばれる転写因子が、解糖系の活性化を主導すると考えられてきた。しかし、がん化において、解糖系回路を活性化する、HIFに依らない分子機構については十分に検証されていない。本研究では、発がんと同様に酸化的リン酸化から解糖系へエネルギー代謝がスイッチするiPS細胞誘導をモデルとして、がん細胞が解糖系代謝を活性化するメカニズムを明らかにすることを目的とした。 当初、研究計画としては、1. DoxによりiPS細胞誘導可能な既存のヒト不死化繊維芽細胞株(hiF-T細胞)に遺伝子改変を行い、HIF遺伝子のコンディショナルノックアウト細胞株を作製する。2. 得られた細胞に、ゲノム編集技術によりゲノムワイドな変異を導入した細胞のプールを用いてiPS細胞誘導を行い、HIF遺伝子の欠損を補完できる変異群を同定する。という予定であった。 しかしながら、hiF-T細胞を用いてクローン単離することが困難であり、コンディショナルノックアウト株を作製できなかった。そこで、レンチウイルスを用いた高効率なゲノム編集技術(lentiCRISPR)によりHIF遺伝子の単純なノックアウトを行い、その細胞を上記研究計画2に用いることを考えた。しかし、lentiCRISPRにより処理するとhiF-T細胞のiPS細胞へのリプログラミングが著しく阻害され、当該研究においてlentiCRISPRの使用は不適合であることが示唆された。 将来においては、ヒト多能性幹細胞を用いてHIF遺伝子のコンディショナルノックアウト株を作製し、それを線維芽細胞へと分化させることで、上記のような問題をクリアする予定である。
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