研究実績の概要 |
① 肺癌切除検体を用いたPD-L1とEZH2発現の解析 九州大学消化器・総合外科にて手術を行った肺腺癌417例について、PD-L1とEZH2の発現をIHCにて解析した。PD-L1については抗PD-L1抗体 (クローンSP142、ラビットモノクローナル)を用いた。染色条件は1:100の希釈濃度であり、陽性基準として腫瘍細胞、および腫瘍浸潤免疫細胞が染色されるもの、そして全体の5%以上が染色されるものを陽性と定義した (Herbst RS, et al., Nature, 2014)。また、EZH2については抗EZH2抗体 (クローン6A10、マウスモノクローナル)を用いた。染色条件は1:100の希釈濃度であり、陽性基準としてAllred scoreを用い (Allred DC, et al., Mod Pathol, 1998)、0-2を陰性3-8を陽性とした。PD-L1とEZH2の発現は21%、および51%に認められ、さらにPD-L1とEZH2の発現は有意に相関することを示された (P<0.001)。 ② 細胞株におけるEZH2発現調節によるPD-L1発現変化の解析 まず、Lu139、PC9、RERF-LC-KJ、EBC-1、RERF-LC-AI、SBC-5、およびA549などの肺癌細胞株におけるEZH2とPD-L1のmRNAレベルでの発現レベルを検討したが、両者に有意な相関は見られなかった。次に、mRNAレベルでのEZH2の発現が高い、Lu139、SBC5、およびRERF-LC-AIを用いて、siRNAによるEZH2ノックダウン (siEZH2)を行い、mRNAレベルでのPD-L1の発現変化を解析した。しかし、EZH2ノックダウンを行わなかった細胞株 (ネガティブコントロール)と比して、siEZH2によるPD-L1のmRNAレベルでの発現は有意な変化が見られなかった。
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今後の研究の推進方策 |
当研究では臨床検体レベルにおいてEZH2とPD-L1の有意な相関関係が証明されたが、細胞株を用いた検討では両者の関係は証明できなかった。この理由の一つとして、EZH2によるノンヒストンタンパクとしてのPD-L1のメチル化の可能性が考えられる。これまでに、p53、RB1、およびSTAT3などの癌細胞の発がん・増殖・生存に重要な役割を有するノンヒストンタンパクが、ヒストンメチル化酵素によってアミノ酸残基のメチル化を受け、機能調節を受けることが報告されている (Hamamoto R, et al., Nat Rev Cancer, 2015)。すなわち、メチル化によって、(1) 他の修飾への影響、(2) タンパク同士の結合への影響、(3) タンパクの安定性への影響、(4) タンパクの局在変化、および(5) 転写因子のプロモーター領域への結合変化が生じる (表1)。EZH2については、これまでにSTAT3などのノンヒストンタンパクをメチル化することが知られており、EZH2によるPD-L1のメチル化の可能性も考えられるため、今後検討を行う予定である。
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