研究実績の概要 |
長鎖非翻訳RNA (long non-coding RNA, lncRNA)による遺伝子発現制御は様々な生命現象と密接に関わっており、近年ではがんの発生や進展への関与も明らかになりつつある。lncRNAの発現制御に関わるシグナルも多種多様であり、発がん初期から腫瘍形成過程における各ステージでlncRNAはダイナミックに発現を変動させ、がん細胞の形質を制御している可能性がある。がん細胞の形質変化は、治療抵抗性に大きく寄与することから、がん細胞の形質を制御するlncRNAは膠芽腫に対する新しい治療標的としての可能性が期待できる。本研究では膠芽腫を自然発生する遺伝子改変マウス(MADM (Mosaic Analysis with Double Markers) マウス (Liu et al. Cell, 2011))を用いて腫瘍形成過程におけるlncRNAの発現変動を解析した。このマウスモデルは神経幹細胞にTp53、Nf1遺伝子の両アレル性の欠失が起こり、その細胞はGFP陽性となり腫瘍を形成する。前がん状態から悪性腫瘍へ進展する各過程におけるMADMマウス脳よりGFP 陽性細胞を単離し、lncRNAの発現を解析した結果、腫瘍形成過程において発現が増加するlncRNAを898個、減少するlncRNAを696個同定した。次にこれらのlncRNAを公共のデータベース(The Cancer Genome Atlas: TCGA)を用いてヒト膠芽腫におけるlncRNA発現と比較解析を行った。その結果、腫瘍形成過程において発現が増加するLnc-1、 Lnc-2は正常脳組織と比較し、膠芽腫において有意な発現の亢進を認めた。MADMマウスにおいてLnc-1、Lnc-2の発現は発がん早期より上昇しており、腫瘍形成期には正常細胞の10倍以上の発現を示した。さらにヒト膠芽腫細胞ではLnc-1、Lnc-2の発現抑制が増殖抑制効果を示すことから、Lnc-1、Lnc-2は膠芽腫の形成や進展に関わるlncRNAであることが示唆された。
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