がんは悪性化すると浸潤および転移をするが、生体内ではその過程を直接観察することが難しく、そのメカニズムや制御している因子については未だに明らかではない。近年、生体内の構造に類似した器官(類器官)を試験管内で作製する手法が開発され、より生体に近い環境でがん細胞の動態を観察することが可能になった。我々はMDCK細胞が3次元培養中で形成する類器官(シスト)をがん浸潤モデルとして用い、シストの回転運動に寄与する因子を明らかにすることによってがん浸潤因子候補を提供することを目標としている。 昨年度は薬剤によるシスト回転運動を定量化するためのスクリーニングシステムの構築を行ったが、今年度は構築した系と阻害剤ライブラリを用いてMDCK細胞回転運動メカニズムの解明を行った。その結果、BlebbistatinやCytochalasin D、Nocodazoleと言った細胞骨格制御に関わる阻害剤が濃度依存的にMDCKシストの回転運動を阻害することを明確にした。さらに、PD0325901やU0126といったマイトジェン活性化細胞外シグナル関連キナーゼ阻害剤、GF 109203XやGo 6983といったプロテインキナーゼ阻害剤が回転運動を阻害することを明らかにし、Purvalanol AやCdk2/9 inhibitorといった細胞周期関連因子阻害剤の一部が回転運動を阻害することを示した。CDK及びCyclinのノックダウンを行ったところ、Cyclin B1がMDCKシストの回転運動に関わっていることを明らかにした。
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