癌はワールブルグ効果と呼ばれる嫌気的解糖系への異常な代謝シフトが誘導される。解糖系は酸化的リン酸化と比較してATP産生の速度が著しく早い一方、エネルギー効率がきわめて悪いため癌細胞は大量のグルコースを消費している。実際に、ワールブルグ効果はほぼ全ての癌種で異常が認められることから現象としては広く認知されているものの、癌の高い増殖能を支えるエネルギー代謝機構としては疑義があり、その意義や分子機序は未だ明らかにされていない。一方申請者はこれまでの解析において、腎癌微小環境中の癌関連線維芽細胞 (CAF)が、エクソソームを介して持続的かつ大量のグリコーゲンを癌細胞に供給していることを示唆する知見を得た。そこで本研究では、癌関連線維芽細胞由来エクソソームがワールブルグ効果の維持に必須なグルコースの供給源となっていることを分子生物学的に証明し、新しい機序の癌分子標的治療薬の開発に繋げることを目的とする。 昨年度までに25例の腎癌CAF及びNFを選択的に培養し、それらに由来するエクソソームの精製を完了した。今年度はその網羅的メタボローム解析によって解糖系構成メタボライト10種、ならびに癌細胞で解糖亢進に伴い亢進することが知られるペントースリン酸経路構成メタボライト6種について定量的な変動率の解析を進めている。本実験系によりこれらの経路の亢進が認められれば、CAF由来エクソソームの取り込みによって癌細胞にワールブルグ効果が惹起される確証を得ることができると考えている。
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