研究実績の概要 |
本研究を計画した背景として、ヒト腫瘍免疫機構において、多様ながん抗原を患者(宿主)のリンパ球が認識する為には患者個々のT細胞受容体(TCR)とB細胞受容体(BCR)の多様性が重要と仮説されている。しかし詳細は未だ解明されておらず、その大きな要因にTCR,BCRの網羅的解析技術が無かったことが挙げられる。我々はこれまでに乳癌において種々の腫瘍免疫関連因子とその治療による変化が、治療効果・予後予測に有用であることを証明し、高い評価をうけてきた。これらを基に、TCR,BCR多様性や癌特異的なTCR,BCRクローン、またそれらが治療効果に及ぼす影響を解明することを目的とした。新たなアプローチから治療効果予測モデルを開発し、個別化治療実践のためのツールとすることが、最終的な目的である。まずここまではトリプルネガティブ乳癌症例を対象に、臨床検体(治療前後の乳癌組織)を用いて、各種免疫バイオマーカーの測定を行った。また、それらの免疫バイオマーカーが実際に組織上で同様に分布しているかの形態学的解析も併せて行った。その結果、細胞障害性T細胞のマーカーであるCD8陽性T細胞と、最も重要な免疫チェックポイントのひとつであるPD-L1の発現パターンによって、4つのタイプ(Inflamed/PD-L1pos, Inflamed/PD-L1neg, Excluded, Immune desert)に分類された。NAC後の遺残腫瘍でInflamed/PD-L1negであった症例はInflamed/PD-L1posと比較し有意に予後良好であった(P=0.0365)。一方であり、その後の予後予測であったり、追加治療の必要性を予測できる可能性が示唆された。辺縁にリンパ球浸潤を認めるExcludedは, 全く認めないImmune desertと比較し同等に予後不良であった(P=0.371)。
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