研究課題/領域番号 |
17K15011
|
研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
丹下 正一朗 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学系), 助教 (40571211)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | がんの個性診断 |
研究実績の概要 |
悪性腫瘍の予後不良因子の候補としては、これまでいくつかの遺伝子の発現や分子機序が発見され、報告されてきている。しかしながら、近年発見された遺伝子や、それを含む経路については研究が進んでおらず、予後予測に適用できるか否かが未だ確定していない場合が存在する。本研究は、腫瘍におけるMURC蛋白質の機能を解析することによる腫瘍の悪性化過程の未知の調節機構の解明を目的とする。 申請者らは、米国の癌情報データベースであるTCGAのデータを用いた解析から、乳癌を始めとする複数の癌種において、本来筋組織特異的な発現を示すMURC遺伝子が高発現な患者群は有意に全生存期間が短い(ログランク法によるp 値が0.01未満)との結果を得た。この他、KMplotter(http://kmplot.com/)に登録されている乳癌患者群のマイクロアレイデータを用いた解析からも、MURC遺伝子の発現が高い患者群は有意に再発までの期間が短いという結果が得られた。 乳癌検体においては、同遺伝子はより難治性なトリプルネガティブ乳癌(以下TNBC)においてより発現が亢進している傾向が確認されている。また、この傾向は、TCGA等の公共データベースを用いた解析で明らかになったほか、TNBC由来の培養細胞株と非TNBC(ホルモンレセプター陽性)の培養細胞株由来のcDNAを用いたリアルタイムPCR法でも同様の結果が得られた。 現在は、乳癌培養細胞株を用いたMURC遺伝子の強制発現系・ノックダウン系の構築が完了し細胞ベースでの増殖・浸潤能の検証を始めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題の採択後に研究室移動があり、新たな所属における研究環境の作成と実験系の構築に時間を要した。また、研究当初見られなかった現象として、培養細胞株を用いた実験においては当該遺伝子のmRNA量と蛋白質量とに乖離が見られる場合があり、この現象の解析にも時間を要している。
|
今後の研究の推進方策 |
正常な筋組織および横紋筋肉腫細胞株において、MURC蛋白質は細胞膜上に局在することがすでに報告されている。しかしながら、乳癌をはじめ腫瘍組織においてMURC蛋白質がどのような局在を示すかは不明であり、非細胞膜的な局在を示すことも予測される。MURC蛋白質を標的とした免疫沈降によって、MURCを含む蛋白質複合体を単離し、質量分析法によって結合パートナーを探索する。 他方、平成29年度の研究より、悪性度が高く予後の悪い腫瘍において「MURC遺伝子の転写レベルが高い」ということが必ずしも「MURC蛋白質が悪性度に貢献している」という確証を得るに至っていない。このため、「MURC遺伝子の転写が亢進する」という環境が悪性度と相関しており、「MURC転写産物はあくまでも悪性度の指標として有用である」という観点を持つ必要があると考えた。このため、上記の計画に加え、MURC遺伝子が発現上昇するような環境を培養細胞上で探索し、このデータから悪性度の高い腫瘍において共通している分子機序を特定するための研究も並行して行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本課題の採択後に申請者の研究室移動があり、新たな所属における購入時期に当初との差異が発生し、一部の消耗品等は次年度の購入とした。このため次年度使用額が発生した。
|