本研究は、がん患者へも投与しやすい神経伝達物質受容体作用薬であるアリピプラゾールがもつ抗がん幹細胞効果を示した報告をさらに発展させ、他の神経伝達物質受容体に作用する薬剤を用いた抗腫瘍効果の検討や、作用機序の検討、動物実験での検討などを主なテーマとして行われた。一つ目の業績として、制吐剤としても用いられる、腫瘍内科学的に重要な薬剤であるオランザピンを用いた実験においては、代表的抗アポトーシス分子サバイビンの減少を介して、ゲムシタビンやシスプラチンなどの代表的抗がん剤の薬剤抵抗性を減弱させることに成功し、その効果は膵がんや肺がんにとどまらず、卵巣がんにおいても示すことができた。それだけでなく、オランザピン処理により、がん幹細胞を分化させて幹細胞性を失わせることにも成功し、併せて報告を行った。二つ目の業績として、アリピプラゾールに比してさらに有害事象が少ない抗精神病薬であるブレクスピプラゾールを用いることにより、膵がんと肺がんのがん幹細胞へのサバイビンの減弱を介した抗がん幹細胞効果をin vitroだけではなく、in vivoにおいても併せて示すことができ、免疫染色によっても機序を確認することができた。また、三つ目の業績として、そのブレクスピプラゾールがグリオブラストーマ幹細胞へのオシメルチニブ感受性を与えるという世界初の発見に至り、その効果はin vitroだけでなくin vivoにおいても示すことができ、画期的な報告を行うことができた。そして、四つ目の業績として、肺がんや膵がんでも同様にブレクスピプラゾール処理によりオシメルチニブ感受性を付与することができることをin vitroだけでなくin vivoにおいても明らかにした。さらなる詳細な機序について現在も引き続き研究を行っている。
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