研究実績の概要 |
我々は,がん細胞で異常な発現と活性を示すGSK(glycogen synthase kinase)3βのがん促進作用を発見し,その阻害による治療効果を複数のがん種で実証してきた.そのメカニズムとして,GSK3βが固有の分子経路により増殖や浸潤を誘導するとともに,がん特有の代謝制御を司っていることを見出した.がんはこうした奇異な代謝特性とともにオートファジーによりエネルギーを効率的に獲得し,悪性形質を発現・維持している.本研究では,大腸がん細胞のオートファジー経路におけるGSK3βの機能を系統的に解析することにより,がんの新たな代謝病態を明らかにし, GSK3βを標的とする治療法開発の分子基盤を強化する. 本年度は大腸がん細胞(SW480, HCT116, LoVo)と非腫瘍性細胞(HEK293)を用いてGSK3β阻害によるオートファジーへの影響を細胞レベルで解析した. まず, 大腸がん細胞と非腫瘍性細胞との間で, LC3-IIの量を指標に通常培養の定常状態でオートファジーレベルを比較した結果, 大腸がん細胞では非腫瘍細胞に比べLC3-IIが増加しており, エネルギー獲得がオートファジー依存的な状態であることが示唆された. また, 大腸がん細胞におけるオートファジー可視化モデルを用いてGSK3β阻害剤処理によるオートファジー活性への影響を解析したところ, オートファゴソーム形成より前の段階で, GSK3βがオートファジー活性化に関与していることが判明した. GSK3βによるオートファジー調節機序を解明するため, オートファジー活性に関与する代表的な転写因子群の発現をqRT-PCRで調べたところ, GSK3β阻害によって発現量の低下する転写因子が3種同定された.
|